王族は御付きのメイドも可愛いくなきゃ
「いやぁー流石ヴィーア殿、一目みた時からただ者ではないと分かっておりましたぞ!御疲れでしょう、肩でもお揉みしましょうかな?」
文官が一瞬で目を覚ましヴィーアに光の速さで揉み手をしている。
「いらん、男が触るな」
「分かりましたぞ!それではお飲み物を持ってこさせましょう!」
「いいからお前は消えろ、豪勢な食事とやら出来てるんだろうな?」
「そう言えば腹減ったナ」
「もちろんですぞ!さぞ空腹でしょう、何せ三日も鏡の中にいたのですからな!」
「…なんだと?」
「私達の体感一日だったのにそんなに経ったのカ!?」
「なんと、それは不思議な現象ですな。今や追悼式も終わり各国のお姫様がコナモン城にお戻りになりましたぞ」
「おぉ、ラーナナちゃん達戻ってきたのか!どこに行けば会える?」
「は?どう頑張っても会えませんぞ」
「なんだとこの野郎!」
ヴィーアは文官の首を締める。
「ぐえええ無理な物は無理です!」
「俺様は鏡の悪魔倒して国を救った英雄だぞ!あーわーせーろー!!」
「わ、分かった。分かりましたから手を離して…」
「ヴィーア、おっさん死んじまうゾ」
文官の顔が紫色になってようやくヴィーアは手を離した。
「口添えはしますがお会いになるかは姫様次第ですぞ、只でさえ今来賓の最中ですので」
ヴィーア達は塔を出ると城に入り、廊下を歩いている。
「さっきと反対になってて変な感じだナァ」
「鏡の世界は左右反転しているのですかな?それは興味深い」
「そんなことはどうでも良い、早く案内しろ」
「こちらですぞ」
城を進んでいくと豪華な鎧を装備し通路を守っている近衛兵に道を塞がれる。
「誰も通せません、ご存じでしょう」
「そこをなんとか。鏡に住み着いていた悪魔を討伐し精霊様をお救いした冒険者が御目通りを希望しているとお伝え下さらんか」
「なんと、その者達が?…にわかには信じられんな」
近衛兵は胡散臭い詐欺師を見るような目でヴィーア達を一瞥した。
埃と油と悪魔の血にまみれており真偽はともかく王族に会う格好では無いのは間違いなく、顔は良いがどことなく野蛮なオーラを感じる
「何見てやがんだ」
「…せめて風呂に入り身嗜みを整えるのだな。それまでに姫様に聞いておく」
「分かりましたぞ。まずは風呂に行きましょう」
「私も風呂に入りたい、ヴィーア行こうヨ!」
「おぉ一緒に入るぞ!」
「入らねーヨ!」
カルの腰を抱こうとしたヴィーアだが手を尻尾に叩かれ避けられてしまった。
「…チッ、結局一人か。メイドの一人でも付けておけよ気が利かねぇ」
兵士用の風呂でも庶民の風呂とは桁が違う程の広い浴槽にヴィーアは一人で浸かっていた。
暇潰しにステータスを見てみるとカルのお陰か俊敏がそれなりに上昇しており、スキルは
体幹安定 バランス感覚がよくなる。常時発動、消費0
「なんだこりゃ、どれくらい良くなるんだ?」
気になったので風呂から出ると石鹸を床に置き、足を乗せる。転んだら痛そうだなぁと思いながらもゆっくり滑ってみる。
「い、行くぞ…すこーしだけすこーしだけ…おぉ!なんだこれ楽しいぞ!」
全く倒れる様子もなく広い風呂場を縦横無尽に滑る、一回転ジャンプをしてみようとしたが流石に転び水桶の山に突っ込んだ。
「うおぉいてぇ…」
「大丈夫ですか?」
桶から顔を出すといつの間にか風呂に入ってきた男が話し掛け手を差し出したが、ヴィーアは手を借りずに立ち上がった。
「いらん世話だ」
そんなヴィーアの態度にも怒る様子もなく、少し微笑むと
「では」
と離れて身体を洗いに行った。
(なんだこの優男は…女をとっかえひっかえしてそうな顔してて気に入らん。俺には数十段劣るがな)
その後も続々と兵士が入ってきて、男率が高まりヴィーアの気分が悪くなってきたので風呂を早々に出た。
脱衣場には、先程まで着ていた服が血や汚れは落とされ小綺麗になって置いてあったので着ていると、文官が入ってくる。
「お湯加減はどうでしたかな?」
「今度からは貸し切りにしてメイドを付けとけ、男のナニを見るはめになるとは思わなかった」
「男湯なのに無茶苦茶な…」
「さぁ、さっぱりしたしラーナナちゃんの所にゴーだ!」
「お待ち下され!一人では通して貰えませんぞー!」
そんな声も届かず待ちきれない様子でヴィーアは走っていってしまった。
「うーん迷った。階段あがってこの辺だと思ったんだが…」
近衛も給仕もいない廊下を進むが流石にこちらでは無い気がして戻ろうとした時、部屋からメイドが出てきた、この城のメイドとは違う黒を基調とした服を着ている。
「お、良い女」
メイドはヴィーアを睨むと部屋の誰かに声を掛けた。
「クーデリア様、御下がり下さいませ」
「何事であるか」
「不審な男です」
メイドの制止を無視し部屋からカークト帝国皇女、ハインツ・クーデリアが出てくる。
「おぉパレードの放送で見たぞ、本物はもっと可愛いな!」
王族相手でもヴィーアはいつも通りに接し、言われたクーデリアは透き通るように白く美麗な顔が目を見開き驚いた表情をした。
周りに決して軽く見られている訳ではない。寧ろ戦後の荒廃した祖国を軍事国家として短期間で持ち直した三代目ハインツ皇帝の長女であり、クーデリアは万全で不自由の無い教育、戦闘訓練を受け16と言う最年少で雷魔法を極めた事でも畏敬の念を集めている。
それでもクーデリアに近付いてくる者と言ったら、自分を政治的に利用し成り上がろうと媚売りする者や、少しでも多くの利益を掠めようと胡麻をすってくる商人や、全肯定するだけの貴族達だけだった。
それをこの初対面の男は自分を王族と知っていながら媚を売るでも下手に出るでもなく、友人と話すかの様に気軽に話し掛けてきた。
それがただただ、面白く愉快で驚愕に値した。




