話にならんな
悪魔と言うものは、きっとどこの世界でも変わらない。人を誘惑し堕落させ、高位の悪魔になれば洪水や噴火や地震など起こす…とにかく人類の敵だ。
魔族とはまた別の種族で魔族が死ぬ際に送られる、獄魔の世界で行われる魂の裁定により様々な悪魔が生まれるシステムになっている。
ちなみに人間は死後同じように天界に送られ天使になる…らしい。
腰を軽くしたヴィーアは精霊フィルギーと別れる前にある事を教えて貰った。
「あの悪魔は、悪魔の軍勢をこの鏡の世界に集め準備が出来たら人間界に侵攻するつもりでした。でもヴィーアさんがいっぱい倒しちゃったから相当怒ってると思います」
「あんな、なれはてしかいない軍で何が出来るってんだ、ちょちょいのちょいだぞ!」
「強い悪魔は獄魔の世界から召喚するのに時間がかかるからまずは数を揃えたかったのかなと…でも考えてみて下さい、寝ている間に一般家庭の鏡から悪魔が出てきたらどうなるでしょう…たくさん犠牲者が出ると思います」
フィルにそう言われ少し焦る。
「待て、奴ら鏡ならどっからでも出てこれるのか?まだ見ぬ俺の女がピンチじゃないか!」
「昔から言われる、鏡ごしに悪魔が映ると言うのは見間違いや一瞬の心霊現象等ではなくて、波長の合った人間の近く鏡から悪魔が出ようとした所を目撃されただけなんです。でも悪魔は出てくる前に見られると出てこれなくなります、それなのに人間の近くで出ないといけないんです…何故か分かりますか?」
「知らん、いいから続きを話せ。出してやらんぞ」
「あう…」
フィルの困り眉が更に下がった様に見えた。
「えっと…続けます。この世界に顕現したばかりの悪魔は人に憑依しないと生きていられないんです。時間をかけゆっくりと魔力を蓄えてそれから出てきます。人を食い破って」
今度はヴィーアが顔をしかめる。
「胸くそ悪い話だな…」
「はい、つまりまだ人間に取り憑いてるだけの悪魔はそこまで強くないんですけど…悪魔の姿をしていたら逃げて下さい、人間が一人で勝つのは難しいと思います…私は大丈夫なので!」
ヴィーアと会ってからずっと困り眉だったフィルだったが笑って言った。
「バカが」
「あう…」
「そんな顔して大丈夫なもんか、それに言った筈だ。俺の方が強いってな!だからここから出たらもう一回ヤるからな、それまで大人しく待ってろ、良いな!」
「あうあう……はい!」
今度こそ初めて笑った。
別に鍵などかかっていなかったが玉座の間のドアを蹴破ったヴィーアは堂々と部屋に入る。
部屋の中央には魔方陣が展開していてその中央には禍々しい鏡が置いてあったが肝心の悪魔が見当たらない。
「オラァ出てこい!」
ヴィーアが叫ぶと空間が歪み、悪魔が現れる。
「はいはいはいはい…すみません。忙しくて気付きませんでした、はい」
何も無かった所からそれは現れた。コウモリの様な羽にトカゲの様な頭、鋭い爪に黒い目。
本物の悪魔だった。
(チッ、さっきフィルちゃんが何か言ってたな。悪魔の姿してたら強いって)
「てめぇが親玉か、ぶっ殺しに来たぞ」
「はいはいはいはい、いかにも私がここの責任者です。まぁ私も派遣されただけなので責任者と呼べるかどうか、はい」
悪魔はヴィーアを脅威とは思っていないかの様に前を通過すると禍々しい鏡の前に向かうと一体のなれはてを引っ張り出した。
「行け」
なれはては、悪魔に命令されると無言で部屋から出ていき何処かへ行ってしまった。悪魔はそれを見送るとヴィーアへ向き合った。
「さて、私を殺しに来たと仰いましたが…やめませんかそんな事?元の世界にお返ししますよ」
「なんだと?」
「ただでさえ、あなた方が部下を殺してしまったので計画に遅れが生じているのです。まぁでもそれは、こちらも殺そうとしたので殺されても仕方ありません。はい」
また鏡へ向かって行きなれはてを引っ張ると、なれはてに何処かへ行くよう命令しヴィーアの前まで来た。
「このように私が自ら引かないと出てこれなくて大変手間がかかるのです。ですから、ね?戦っても疲れるしやめましょうよ…あなたが命を掛ける必要がどこにあるんです?元の世界に戻って、何も無かったって言うだけで今まで通り好きに女を抱ける生活に戻れるのです。はい」
悪魔の甘言
耳元で囁かれヴィーアは頭がボーッとしてきた。
「確かに…なんで俺がこんなとこまで来て…戦わなきゃならんのだ…」
「そうですそうです!はいはいはいはい!今なら何もしませんよお約束します!このまま帰っちゃいましょう、更に好きな時に呼び出せて好きなことをいくらでもしていい悪魔もお付けしましょう。もちろん顔も身体の質も保証しますよ、これは契約です!」
悪魔が手を叩くと女の悪魔が出てくる、際どい殆ど裸の様な服で男に媚びる表情をしている。
「おぉ!グラマラスだな!」
「えぇえぇ、お好きでしょう?存じております、では鏡の中に入って頂けますか?そこから元の世界にお返しします。何も心配はありませよ、はい」
(なんと他愛の無い事か、所詮ただの人間だ。手下がやられた時は一体どんな人間が来るかと思ったが今まで堕としてきた有象無象となんら変わりはしない…そして悪魔の鏡に入ったら最後、魂が穢れて一瞬で悪魔になるでしょう…)
悪魔が勝利を確信した時だった。
「…他には?」
「は?」
「たったそれだけでヴィーア様を買収しようだなんて出来る訳…無いだろうが!」
ヴィーアは予備動作もなく逆袈裟斬りを放ち、悪魔は油断していたのもあり反応が遅れ防御に使った翼に大きな裂傷を負った。
(ぐっ、速い!)
「いいか!お前なんざに言われんでも好きな時に好きなだけヤる!お前を殺してフィルギーとヤる約束もある!帰ってカルとヤる!もちろんそこの悪魔娘ともヤる!」
「はい!?一体何を言ってる!」
ヴィーアが言ってる事がこれっぽっちも分からず悪魔が逆に混乱し、悪魔娘は身の危険を感じ玉座の裏に隠れた。
「何より…お前のにやけ面が気に入らねぇ!」
振り上げた剣を真っ直ぐ振り下ろされ、何とか爪で弾き返した。
「何者なんですか貴方!?たかが人間にこんな力がある筈無い!さては魔族とのハーフですね!?」
「んなはははは、そんな訳ないだろう。たださっきヤったばかりだからな!ヤった後の俺は調子がいいぞ!」
フィルギーと致した後なのでヴィーアには指輪の効果で一時的にステータスアップのバフが付いている。
「ヴィーア!」
遅れてカルが玉座の間に入ってくる。
「こらカル!俺にだけ戦わせるとは生意気だ、後でお仕置きだぞ!」
「しょーがないだろー?こっちは敵がいっぱいいたんだっテ」
ヴィーアの横に並び鉤爪を構える。
「ウーワ本物の悪魔ジャン、勝てるかナァ」
「まだ分からんのか、俺がいる限り負けはない」
「うーん、まぁ信じてるヨ」
悪魔との戦いが始まる。




