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燃やせば解決だ!

 人は闇を恐れた。闇の中からブギーマンが出てくるのでは無いか、それが牙を剥き自分を暗闇へと引き摺り込んでいってしまうのではないかと。

だが大抵の場合は意を決して見てみると何も無いものである。しかしそれを当たり前だと思ってはいけない、現に今闇の住人に襲われている者もいるのだから…


 ヴィーア達は城壁に上がり城を偵察していたのだが色々あって発情スイッチが入りかけていたカルミティが耳をピンと立てた。


「ヴィーア、何か来るゾ…」

「あぁ?」


 視線は反対側の角、ここからでは距離があるし何よりも暗いのだが獣人には些末な事でありしっかりと見えているようだ。

言われて耳を澄ますと確かに、硬い石畳の上を何かが歩いて爪で引っ掻く気配はする。


「ならさっさと逃げるぞ、戦っても仕方ない」


ヴィーアが気配がする反対の方へと走ろうとしたのだが…。


「ダメだ!反対からも来てル!」

「ええい!」


ヴィーアは抜刀しカルは鉤爪を構え……。


「…何も見えんが」

「これは…悪魔の猟犬!見えないんダ!」


 ハッとしたカルは急いで床に塩のサークルを作り、輪の中に入る。


「早くこっち来てヨ!」


 ヴィーアはその様子を怪訝そうに見ていたが手を引かれ塩の中に入った瞬間だった。

獰猛な犬の鳴き声がした。


「おわっ!見えんのに声がする!しかも思いっきり噛み付いてきて首振って殺そうとするタイプの声だ!」

「ひひはははは、番犬によくいるみたいな奴ネ?」


 簡単に想像出来てこの状況下でもカルは笑ってしまったが…


「この辺か…オラァ!」


 声と気配を頼りに剣を振ってみるが避けられたのか、そもそも見当違いなのか当たった手応えはなく、声も消えない。


「チッ、見えんと難しいな。やんごとない道具で何とかならんのか?聖水とかで遠ざけるとか」

「見付かってる状態じゃ意味ないんだなこれが、聖水は悪魔とかが本能的に嫌がるだけで無理すれば通れるかラ」

「役に立たねえな」


どうするかヴィーアは考え、一つ思い付く。


「おい水と塩くれ」

「ン、どうすんダ?」


聖水を声のする方に撒き散らす。


「悪魔の猟犬だろうが犬なら毛があるはずだ、これで濡れれば位置が分かる」


 水溜まりになった聖水を踏んだ足が濡れていて、おおよその見当を付けることが出来るようになったヴィーアは犬の後方に塩を撒き下がれない様にした。


「それで、こうしてやって…油」

「ン」


油をかけ火をつけた。

塩で前にも後ろにも行けなくなった猟犬はじわじわと焼けているのか、肉の焼ける臭いが辺りに漂う。


「終わりだ」

「ほォ~!スゲェ!頭良イ!」

「とーぜんだ!犬畜生ごときに負けるわけ無いのだ!」


 しかし犬を倒したものの、騒音を立て火の手まで上げてしまったヴィーア達が他のなれはて達に見付からない訳無く、中庭からこちらに殺到してくるのが見える。


「うわっ、早く逃げないと今夜のディナーにされちゃうヨ!」

「俺のマントの中に入れ!ずらかるぞ!」


 ヴィーアは耐熱マントにカルを頭からスッポリ覆うと、自身が腕で顔を守り炎の壁を抜ける。


「それで、どうするんダ!?」

「決まってる、あんな雑魚ども蹴散らして進むぞ!」


 油を直刀にかけ火をつけると、闇を切り裂く一振の刀になる。

元よりカレインが火の魔法を使い刀に火を纏う事もあり親和性が高く持ち手が熱くなることも無く炎が手にかかることもなかった。


 階段を駆け上がって来たなれはてを二体まとめて切り捨て蹴飛ばすと、塊になっていたなれはて達にぶつける。


「とは言ったものの数が多いな、疲れたしんどい。帰ってエロい事したい」

「ねぇ早いよ泣き言言うの!さっきキリッ!てしてからまだ30秒だヨ!」


 狭い廊下の壁をジグザグに跳び回りに、鉤爪で敵を蹂躙しながら進むカルが進路を拓く。


「なんかこーよ、一網打尽に出来ねぇかな」

「あ、またなんかロクデモナイこと考えてる顔してル」


 第一陣を倒したのかとりあえずの追手は居ないがまだまだ走る音が聞こえる。

廊下を進み何かの部屋の前を通過し…


「お、閃いたぞ」


ヴィーアは悪い顔をした。


 カルは廊下の中央で陣取っていた、塩を端から端まで引いてなれはて達が越えられない様にしている。


「本当にうまくいくんだろうナァ…」


 なれはてが追い付いてきて、虫の群れが飴玉に群がるかの如くカル目掛け走ってくる。

作戦がうまくいくかは心配ではあったが、例え失敗してもあの男は自分を見捨てないだろうと思う。短い付き合いだが自信があった。

それに別れる前に首飾りを貰った、だから怖くはなかった。

塩の手前まで群れが集まり、塩をどかそうと手を伸ばして見るが煙が上がり悲鳴と共になれはては腕を引っ込める。それでも少しずつ塩が薄く、少なくなっていく。

後続がまだまだ来ているのか唸り声を上げながら走ってくるのが見えた。

これ以上塩を減らされないように伸びてくる腕を鉤爪で引っ掻いて行くが多勢に無勢でみるみる内に減っていく。


(速ク…速ク!)


今最後のなれはての一団が列の後方に加わったのを見てカルは叫ぶ。


「ヴィーアアアアアアァァァ!!!!」


先ほど通過した部屋からヴィーアが出て来る。ちゃんと部屋には聖水が撒いてあったのでなれはて達が近寄らないようにもしてあった。


「俺、参上!」


 急いで塩のラインを引き後ろからも出られない様にすると残った油を全部ぶちまけ、火を放った。

なれはて達はどうすることも出来ずその場で焼き尽くされた。


「カル!無事か!」

「こっちは大丈夫!でもそっちには行けないから城の中で落ち合おウ!」


 炎は勢いを増すばかりで消える気配は無かった。


「分かった、死ぬなよ!」


お互い城を目指し別方向に走り出したのだった。

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