でっかくて可愛い、それが分からん奴は来んでいい
ポタト男爵の屋敷を明け方に出発し、ついた頃には朝飯時になっていた。
自分の宿前で降りたヴィーアはオリーを抱き抱え部屋に戻りベッドに寝かせた。
ベッドの側に椅子を持ってきて座りオリーを見る。
規則正しく寝息を立てている様だ。
「…はぁ」
やっと緊張の糸を解けた気がした。
「全く、俺を差し置いて一人でベッドを占領するとは」
だんだんと自分の調子を取り戻してくると軽口が止まらなくなり、腹も減ってきた。
「せいぜい今のうちに眠っておくんだな、治ったらひんひん言わせてやるからな」
何か食べようと思い立ち上がり、何かあったか食料を纏めている袋を開けたがろくなものが入ってなかった為外に出ることにした。
(そう言えば、カレインの剣持ってきちまったな…まぁ今度返せばいいか)
適当な日持ちする食べ物と予算内で買える薬を買って部屋に戻ると、オリーが目覚めていた。
ベッドに座り、窓の外に視線をやっていた。
何故かヴィーアはどう声をかけてもいいか分からなくなり立ち尽くしてしまう。
(なんだ、何て言えば良い?あー、大変だったな?…俺のベッドを占領しやがって!か?…腹減ってるか?ちょうど食いもん買ってきたぞ…か?)
「ヴィーア」
ヴィーアが固まっていると、先に声をかけられた。
「お、おぉ…なんだ」
「服を脱がせてくれないかしら?」
痛みに顔をしかめながら万歳する。
「…さすがに怪我が治ってからでいいぞ、動いてる間にベッドが血塗れになりそうだ」
「違うわよ!ていうか服が既に血塗れにで気持ち悪いの!」
「あぁそういう」
折角の青いドレスは埃と煤と血で汚れて見る影の無くなっており、確かにこれでは寝るのにも気持ち悪くて眠れないだろう。
背中に回り脱がそうとしたが、傷口が衣服に張り付いて痛そうだったのでポーションをかけゆっくり剥がしてやる。
血は止まっているが痛々しい傷が目に飛び込む。
「…醜いかな」
弱々しくオリーが尋ねる。
「いいや、綺麗だぞ」
「…服、貸してくれる?」
「あぁ、たぶんここら辺に当たらしめのが」
比較的綺麗なシャツを投げ渡そうとしたが、着れないだろうと思って着せてやった。
「汚しちゃうかも、ごめんね」
「また、買えば良い。安物だし気にするな」
(あ、まずいシャツとパンツだけになったオリーを見ているとムラムラが襲ってきた)
慌てて顔を背けるがムクムクが止まらない。
「…ヴィーア」
「な、なんだ」
「口なら開いてるけど」
オリーの白くて細い綺麗な指がズボンの上から撫でつけた。
スッキリしたヴィーアはズボンを履き直す。
「お尻もアザ無かったわよ」
「何の話だ」
「屋敷で突き飛ばしちゃった時なんか言ってたでしょ、もう忘れたの?」
「男は出した後細かい事は気にしないのだ」
「ふふふっ、ほんとおかしな人」
二人ともいつもの調子を取り戻し、会話がスムーズになる。
「さて、ちょっとギルドいって金を踏んだくってくる」
「そう、行ってらっしゃい」
ファーティーギルドについたヴィーアは真っ直ぐファーティーのオフィスに向かう。
「おぉ来おったか」
「金の用意は出来てるんだろうな、危険手当もりもりだぞ」
「あぁ、これや。オリービアのことは聞いた、二人とも生きて帰ってきてくれて何よりや」
ファーティーは戦地から帰ってきた子供に語りかけるようにゆっくり喋り、丁寧に金が入った袋を置いた。
相変わらず引ったくる様に奪い中身を数える。
「ひぃふぅみぃよ…」
金貨が4枚だった。
「契約の時より金が少ねーじゃねーか!中抜き豚野郎!!」
「あったり前や!屋敷燃やして私兵怪我させて服も装備もぜぇーんぶゴミや!それでそんだけ出れば御の字やろが!」
「現場で何かあった時の為のギルドの保険はどうした保険は!?」
「お前は使いすぎてとっくの昔にブラックリストや!毎回毎回いらん奴ぶっ飛ばしたりぶっ壊したり犯すのも大概にせい!」
「あーーーそう言うこと言うんだな!?こんなギルド抜けてやる!」
「お前はこの国のギルドからもブラックリストやろが!そんな事も忘れたんか!」
「がっ、ぐぬぬぬ…芋喉に詰まらせてくたばれバーカデーブ!」
「おう誰か塩まけ塩!」
ヴィーアはギルドを後にした。
「ムカムカ、あのデブめ。いつかぶち殺してやる」
ムカムカが収まらないヴィーアの足は酒場に向かっていた。仕事が終わった後は大抵向かう馴染みの酒場だ。
ランバージャックの酒場、ぷち巨人族が経営するリーズナブルな酒を提供し働く庶民の強い味方だ。
店の名前でもあるランバージャックはぷち巨人族と獣人のハーフで赤く長い髪に獣耳、無表情で紫色の瞳に猫髭、抱き心地の良さそうなボディにふかふかしっぽ付きの女の子だ。ちなみに体毛は無く人間と変わらない。そしてぷち巨人の平均が2メートル50センチに対しランバージャックは2メートルぴったりと非常に小柄なのもあり、そこまで人間達が威圧感を感じないのもあり客行きはそこまで悪くない。
「ヴィーア、いらっしゃい」
客商売に全く向いてない無表情な接客だが、何故かそれが癖になると一部の性癖に刺さった様で今日もちらほらと、客が入っているようだがヴィーアの特等席ランバージャック真正面の椅子は空いていた。(昔そこに座ってランバージャックを口説いてた奴を引きずり下ろし喧嘩になって以来ランバージャックが空けている)
「おうランちゃん、いつものだ」
何を飲むか分かっているランバージャックは顔を見た時にはヴィーアが決まって最初に頼む白ビールをカウンターに出している。
「ランちゃんを見ながら飲む酒はうまいな!」
その間にもヴィーアが好んで食べるつまみが注文せずとも出てくる。(食べたくないときは予め伝えないといらん出費となるのだが)
「最近よく来てくれる冒険者の人間が減った」
唐突にそんな事を言ってきた。
「ふーん、死んだか」
「分からない、でもお客さんには死んでほしくない」
「まぁ俺は死なないからそんな悲しそうな顔しなくていいぞ」
無表情そうに答えるが見る人が見れば分かる、悲しみの表情だ。これを理解すれば通として名乗れるそうだが特にヴィーアは通わずとも分かるのは伊達に女好きではないと言うことなのかも知れない。
「そう言えば最近噂を聞いた。最近王室が色んなギルドの上級冒険者を集めて変な事しているって」
「へんな事ってなんだ、エロい事か?」
「…たぶん違う」
ちなみに今のは呆れた表情だ。




