カレインの闘い
「どけどけ、通しやがれ!」
「何者だ貴様!」
実演が終わりプールから出てきたポタト男爵に詰め寄るヴィーア達、当然ながら私兵の邪魔が入る。
「一大事だ、男爵と話させろ」
「確保ー!」
だが当然私兵四人に囲まれて身動きがとれなくなったので、遠慮無しにスキルを放つ。
「チッ、衝撃斬!」
「「「「ぎゃあああ!」」」」
「私兵殺しちゃまずいよヴィーア!」
「安心しろ殺してない!」
「何事だ!私の兵を殺したのか!?」
「違うんです男爵これは!」
そこにポタト男爵が私兵を連れてやってくる。
目撃者多数で弁明の余地が無いことは承知の上だがオリーが弁明しようとした時だった。
「そんなことより逃げろ、バケモンの正体が分かった」
「えぇ?男爵じゃないって事?」
「なに?私を疑っているのか?」
そこにコルト兄弟が現れる。
「いいや違う、リミキンは男爵じゃない」
「僕達はさっき屋上から銀を溶かした水を霧吹きでまいた、皆が魔道具の実演を見ているときにね」
「その時この会場にいた人間全てが浴びたが反応は出ていない、じゃあ浴びてないのは誰だと思う?」
「厨房にいる人や外の警備員はもう裏が取れている、全員白だ」
オリーが腕を組み当時の事を思い出そうとする。
「あの時会場に遅れて来た人と言えば…まさか」
「あのクソ野郎だ、カレインが危ない」
「犯人分かっていたの?だったらなんで早く…」
「敵は一人とは限らん、カレインを囮にする形になっちまったがこれで分かった。二人を探しに行くぞ!」
~カレインがヴィーア達と分かれてから~
「ヴォルト、どこに行くんだ!」
初めは何か考えがあるのかと黙って着いていっていたカレインだったがどんどん会場から遠ざかって行くヴォルトを不審に思い声をかける。
「いいから、僕を信じて」
「しかし早くしないとヴィーア殿が魔物と…」
「彼を助けるのはこうするのが一番なんだ、ついてきてくれ」
薄暗い屋敷のどこをどう進んだかあまり覚えていないが、ヴォルトは大食堂のドアを開けた。
「この中に役立つものがある、それを持っていこう」
そう言うとヴォルトは灯りのついていない大食堂を歩いて奥まで行ってしまい見えなくなる。
「おいヴォルト!」
返事は無い…。
冒険者となって外で何度も夜営をした、寝込みを魔物が襲いに来る事だってあるし危険に慣れている、別に暗闇を恐れてはいない。
それなのに先程からヴォルトの態度で薄気味悪い何かを感じる、カーテンは締め切られ月明かりすら届かない。
開け放たれたドアから入り込む光を頼りに少し進むとテーブルの上に蝋燭を見つけたカレインは火を灯そうと火付けの魔道具を取り出し蝋燭に火を灯す。
その時だった、後ろから殺気を感じ勘に従い避けるとテーブルに薪割り斧が振り下ろされた。
「誰だ!」
愛用の直刀を抜き相手と相対するとそこにはメイドが感情のこもらない顔でこちらを見ている。
「いったい何をするんだ!返答次第では容赦せんぞ!」
カレインは怒りを露にするが、また背後に気配を感じた。今度は部屋の奥から包丁を持った料理人が出てきたのである。
背後から攻撃を受けないように壁を背にするカレインに料理人とメイドは一斉に襲いかかった。
「ぐっ、なんだこの力は!」
ただの料理人とメイドが出す力とは思えなかった、力任せで大した技術の無い攻撃だが躱すことの出来ない空間で攻撃されれば防ぐ他なく、息のあった攻撃にジリジリと壁に押し込まれて行く。
「舐めるなよ…二天火炎斬!」
直刀に炎を纏わせ攻撃力が大幅に上がるスキルを発動させると市販の包丁と斧では話しにならなく打ち合った刃から切断し胴体を切り裂いた。
「はぁ…はぁ…まさかこいつらもリミキン、敵はどれくらい入り込んでると言うのだ…」
切り捨てた二つの死体を見下ろしながら息を整える。
「まったく、大人しく死んでくれれば良かったのに…どうして大人しく死んでくれないんだい?」
ヴォルトだ。椅子に座りにやけた顔でこちらを見ている。
「ヴォルト、いったいいつ入れ替わった!?」
「隙だらけだったよこいつは、バカ丸出しだ。自分から孤立したかと思えばメイドに自分の自慢をしに行ったりね…その点君は隙がまったく無かった。君の記憶を引き継げれば僕はもっと強くなる!その為にさ、君を殺させてくれよ!」
ヴォルトが立ち上がり武器を構える。あの構えは…。
まずい、避けねばと思い回避しようとしたが体が動かない。さっき倒したはずの料理人とメイドが腰と両足を押さえている。
「なっ!」
カレインの秀麗な顔が驚きに染まる。
「もう忘れたのかい?僕達を殺したければ…銀を心臓に打ち込むってなぁ!!!!」
スキル、迅雷。
恐ろしい速さで駆け抜け敵を貫くスキル、その軌跡はまるで稲妻のようだ。
(やられる!受け止められるか!?)
愛刀を十字に構え防御の構えをとりーーー
「うわぁぁぁ!」
カレインを押さえていたリミキンもろとも吹き飛ぶ。直撃は防いだが傷は消して浅くなく愛刀二本も吹き飛んでしまった。
何とか体を起こし、腹の出血を片手で抑え足太ももから隠しナイフを二本抜き相手に向ける。
「おいおい、そんなナイフで今さら何が出来るって言うんだい?」
「わからん…だが私は…まだ生きてるからな…やれることをやるだけだ…」
力を込め、ナイフに炎を纏わせるとヴォルトに向かって投擲したが大きく横を通り過ぎ、一つは壁に突き刺さりカーテンを燃やしもう一つは窓を割った。
「全然検討違いの場所だよ?もう目も見えていないんだろう?諦めなよ、楽になっちゃえよ」
ゆっくりと歩いてくるリミキン達、だがカレインは何故か笑っている。
「いいや、狙いはこれでいいんだ…」
「あん?一体何を言って…」
「しょーーうーーーげーーーーきーーーー…斬っ!!!!!」
ヴィーアが廊下から全力の勢いで走って衝撃斬を放った。
「なにぃぃぃぃ!?」
3体のリミキンは凄まじい勢いで壁に吹き飛ばされた。
「おう待たせたなカレイン、後は俺が片付けてやる」
「カレインさん、今治しますからね…ごめんなさい、私レベル低いから時間かかっちゃうけど、絶対助けてあげるから」
オリーがカレインの横にしゃがみ治癒をかける、皆が来たのを確認すると安堵からかカレインは気を失った。
「よかった…来てくれた…」
「アレク!嬢ちゃんを治せ!俺はあいつをぶっ倒す!」
「分かった、ザックも気を付けろ!」
「女の身体を奪って、力付くで魔道具を奪おうと思ったのになぁ…やっぱりお前から殺せば良かったよ」
リミキン達が立ち上がり、構えをとる。
「けっ、先に俺のところに来てたら事件にすらならなかったぜ。一瞬で倒してやるからな」
「やっぱりムカつくな君はよぉ!!!」
炎燃え広がる食堂で、戦いは続く。




