リミキンの正体
「あれがポタト男爵みたい」
壇上の初老の男が男爵で、耳を澄ませると、もうすぐ魔道具を持ってくるようだ。
私兵に四隅を守らせながら執事長がカートを押してくる。それが中央まで運ばれてくると話し出した。
「この魔道具は当家の商船が航海中たまたま見付けた水没都市、そこを探索して見付けたものです。この魔道具はなんと水の中でも息が吸えるようになります、100人までは同時に使えましたがそれ以上は検証しておりません。それでもこの魔道具の凄さが伝わるかと思います!」
布が外されるとそこには黒い水晶玉が現れ、観客達が感嘆の声を出す。
「これは素晴らしいですな効果もさることながら見た目も美しい」
「軍事的にみても常識が覆るかと」
「しかし実際に見てみないことにはにわかには信じられん、水の中で息が出来るなど」
会場がざわめき、騒がしくなる。
「ホントかな、すごいね」
「んー」
「私も気になるな、海には強い生物や魔物が多数いると聞いた。戦ってみたいものだ」
「カレインは戦いたいのか?」
「あぁ、自分がどこまで出来るのか試したい。強くなければ他人はおろか自分すら守れないからな」
「そんなもんかねぇ」
「貴殿とも戦ってみたいぞ、一目見た時からただ者で無いことは気付いていた。」
飛び火したヴィーアは顔をしかめる。
「嫌だ面倒くさい、そんなことしたって疲れるだけだ。…それより俺と一緒に寝ないか?」
「それは私を口説いているのだろうか?ふむ、ならば私に勝ったらと言うことでどうだ?」
「お、ゆーたな。すぐやろう今すぐやろう」
「今は仕事中よ後にしなさい!」
「あっ…そうだな、オリービア殿と言う人がいるのにすまなかった。今の約束は無かった事に…」
「私は別に良いわよ、ヴィーアがしたいことに口を出さないの。婚姻関係でも無いしね。」
「そうだぞ、よーし仕事が終わったらだな。ヤる気が出てきたぞー!」
「本当に困った人ね」
ヴィーアのヤる気が出て視野が広がった所で周りを見渡すとコルト兄弟が屋敷の屋上にいるのに気付いた。
「それでは実際に御覧にいれましょう、となりのプールへどうぞ」
男爵を先頭にぞろぞろと移動を始めるとそれにあわせコルト兄弟も移動をした。
プールのすぐ隣にステージを立てたと言うことは初めからこうなることを予想していたのだろう、濡れても良いようにタオルまで用意があった。
「では私自ら実演致しますが、まだ半信半疑のご様子、どなたかご一緒しますかな?」
先程まで半信半疑な貴族はもちろん称賛していた貴族ですら二の足を踏む。
「さぁアマレット子爵、どうしましたかな?当家のプールなどアマレット子爵のプールに比べれば水溜まりですぞ。足だってつきます」
貴族達に笑いが起き少し心の余裕を取り戻したのか我も我もと手を上げる。
集団の密集具合が高まった所でコルト兄弟が動き出した。
霧吹きで何かを散布している、貴族達は興奮状態であり水辺と言う事も重なり体にまとわりつく湿気には気付かなかった。
会場全体に行き渡ったのを確認したコルト兄弟は移動し見えなくなった。
「おぉこれは凄い!本当に水の中にいる!」
「まさかこんな経験をする日が来るとはのぉ!」
「空気の膜が体を覆っているわね!ヴィーア、私達も入ってみましょうよ!」
「えー…嫌だ」
実演が始まったようだがヴィーアはおっさんの芋洗いを見て気分が悪くなった。
「ヴォルト!貴方は一体どこへ行っていたのだ!」
カレインが声を荒げたのでそちらを見るとヴォルトが駆け寄ってくる。
「カレイン、落ち着いて聞いてくれ。怪しい人影を見たから追いかけていたんだ。そしたらそれは誰だったと思う?今あそこにいる男爵だよ」
「そんな馬鹿な、では本物の男爵はいったいどこへ…まさかもう殺されてしまったのか?」
ヴォルトからもたらされた情報が一同に衝撃をもたらす。
「それは僕にも分からない、ただこのお披露目が終わったらそのままどさくさに紛れていなくなるかも。早目に始末した方がいい」
「ヴィーアくん、さっきはすまなかった。そしてお願いだ。僕達が引き付けるから奴の心臓を突き刺してきてくれ」
「…そうだな、カレインちゃんと約束あるからな。さっさとすませよう」
「助かるよ!一目見た時から頼りになる男だと思ったんだ、さぁ行こうカレイン」
「待て待て、仲直りの握手だ」
「ん?それで君の気が済むなら…」
握手するヴィーアをオリーは口を大きくあけ信じられないものを見た顔で見ている。
「お、待ていろいろ汚れているぞ」
ヴィーアは整理を発動させ髪の汚れを払ってやり衣服の乱れを直し最後に両手で顔を挟み確認する。オリーはいよいよヴィーアがおかしくなったのかと思った。
「お、おいもう十分だ離してくれ!行くよカレイン!」
「わ、分かった、ヴィーア殿もご武運を」
二人は離れていく。
「い、今のはいったいなんだったの?まさかヴォルトを狙っている訳じゃあ…」
オリーは二人を見送るヴィーアの後ろ姿に声を掛けた、その背中は尋常じゃないくらい震えている。
「うっがああああああ男に触っちまった!!!!」
近くにあった度数の高い酒で手をよく洗い一杯注ぎ一口で飲み干したかと思うとオリーに抱きつき首筋の匂いを嗅ぐ。
「ヴィーア、凄く嬉しいんだけどここじゃ恥ずかしいからその…」
「だめだ急いで浄化しなければ!いや、しかしそれどころじゃない、行くぞついてこい!」
「な、なんなのいったいー!!」
ヴィーア達は人混みを掻き分けプール再度に向かう…
男に触るとじんましんが出る(気がするだけ)




