8話:猫は急に追いかけっことやらを始めたがるのである
そんなある日、元気に回復した猫だったのだが、また姿を消してしまった。
猫という生き物は、もしかすると妖術なるものを使うやも知れぬ。それにしても何故か就寝前より、部屋が荒れている気がするのだが、これは一体どういうことなのであろうか?
吾輩は首を傾げながらも、猫を探すため家中を見て回った。
すると、台所の方でカサカサ、カサカサと不気味な音がするでは無いか。吾輩は内心、ビクビクと肩を震わせながらも、男たるもの怯えることは決して許されぬと自身に言い聞かせ、恐る恐る襖を開けた。
そこには猫が引き戸を器用に開け、魚の干物が入った袋を食い破り、中身を物色しているでは無いか。
あやつめ、妙なことを覚えおって。そんな怒りが込上がるものの、怪我でもされれば溜まったものでは無い。
吾輩はすぐさま猫を捕まえようと、襖を開け猫の元へと近づいた。しかし、猫は危機管理能力とやらに長けているらしい。
吾輩の足元をスイスイと抜けていき、追いかけっことやらをさせられる羽目になった。
齢四十のおっさんが、猫ごときに追いかけっこなど、ちゃんちゃらおかしいまであるのだが、吾輩は至って本気で捕まえようとしている。
それが面白いのだろう。猫はたまに吾輩を嘲笑するように立ち止まり、もう少しで捕まえれるであろう瞬間を見計らって逃げるのだから、かなり舐められたものである。
そんな追いかけっこは小一時間も続いたが、吾輩の体力が限界に達し、ぜぇー、はーと息を吐き出し大の字で床に伏していると、勝ち誇った表情で、吾輩の腹の上に乗っかり、ミャオ〜、ミャオ〜! と鳴くでは無いか。
その姿はまさに珍妙である。しかし、その勝ち誇った表情は何処か面白く、吾輩の心を温かくしてくれる。吾輩の口元は自然と綻び、笑みが浮かび上がるのが分かった。
参った、参った。元気なのは良い事かも知れぬな。吾輩は、猫との追いかけっこに潔く負けを認め、優しくその頬を撫でてやると、とても嬉しそうに喉を鳴らしながら目を細めてくるのである。
本当に猫というものは不思議な生き物である。
次の更新は10月30日の20:20なのである!