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その手に掴め

作者: 楽部

 母は言っていた。


「女だからって、手に職をつけて自立しないと」


 母の母からも言われていたらしい。祖母は、経済的に余裕のなかった祖父でとても苦労した。だから、相手に頼らない、逆に頼られるくらいを目指す。


 また、母はこうも言っていた。


「男の人はね、その人の胃袋を掴むのよ」


 そうすれば上手くいくの、と利き手を拳で握ってみせる。脇で腹をさする父を置き去りに、自信に満ち満ちた母。相手は手に入れるもの。子供心にも深く印象付けられた情景。


 だから、私は医者になった。専門は消化器外科。多忙な仕事量でプライベートは圧迫されても、必ず相手パートナーを掴む、掴み取る。


 でも、それで結実しないのがなかなかの現実。医者という立ち位置が差を作るのか。支える仁や敬は尊いが、愛は求める関係に深まらない。


 ……


「姉さん、何言ってるのよ、もう」


 空いたランチ時間、妹は相談に乗ってくれた。似通う外見も、既に上位カーストに居る彼女。


「胃袋を掴むなんて、いつの時代よ。母さんの言ってることなんて、そのまま真に受けちゃダメ」

「やっぱり、そうよね。確かにそう」


 現代は進んだ内視鏡カメラの社会。


「違うわよ!」


 首を振り、方向性がまるで違う、よく聞いて、と諭してくる妹。


「よく聞いて。姉さんは、その人のハートをキャッチしないと」


 ……


 緊急手術オペが入ったわ、お先〜、と慌ただしくも姿勢正しく歩みゆく我が妹。


 心臓外科。


 ギュッと鷲掴み。ううん、心外よね。


 あとに予定もない私は、じっと背を見た。

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