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1.21歳の頃の僕について

1.21歳、大学3年生の僕について


21歳の頃。僕はジョルトコーラを買いに自転車を走らせていた。(コカコーラでもペプシコーラでもなくジョルトコーラですよ)

僕の生活する学生寮の半径5キロ以内でジョルトコーラが買えるところはひとつしかない。

豊島区にあるマンション「南池袋パークタワー」の1Fロビーに設置してある自動販売機だけだ。


自動販売機ベンダーのくそバカやろうか、それとも飲料メーカーに文句を言えばいいのか?

とにかく誰が腐れ脳みそなのかははっきりしないが、やつらは自動販売機をオートロックの自動ドアの内側に設置しやがった。

おかげで、ジョルトコーラを買うためには、マンション住民もしくは関係者の出入りによって自動ドアが開くのを待たなければならない。


時には1時間待つこともある。

寒風に震えながら奥歯をガチガチ言わせることも、夏の暑さにTシャツを汗でベットリさせて待つこともある。

そして、人の出入りによって自動ドアが開いたとしてもマンションの中へ入るのは、至難の業だ。

なんせ僕はマンション住人でもなければ、宅配業者でもない。

ダスキンを売りに来たセールスマンですらない。

ただ、文京区から自転車を走らせてジョルトコーラを買いにきた大学生である。

ドアが開いた瞬間に、目にも見えない速さでシュパっとマンション内にすべり込めばいいと思うかもしれないが、人間はそんなには早く動けないものである。

やってみればわかるが、どうしても相手の視界に入ってしまう。

で、あればイシコロぼうしでもかぶって全く人の注意を惹きつけないようにできればいいのであるが、これまた現実的には難しい。

またオートロックのカギを開けてマンションへ入ろうとするOLさんの後ろにぴったりとくっついてドアを潜ろうものなら「ギャー。この人痴漢よ。大量殺人犯よ。管理人さん。お巡りさん。山本課長。達也。誰か助けに来てー。ギャー」と大声を出され、一晩留置場で過ごす羽目になるとも限らない。

じゃあ、「すいません。カギを部屋の中に忘れちゃって。はは」とマンションの住人であるかのように装い、怪しまれないよう偽装するという手もあるが、そうすると、マンションの住人であることを装った手前、いつまでも1Fロビーでもたもたしているわけにはいかず、かたち上エレベーターに乗り込み、どこかのフロアで降りないといけないし、万が一、どの部屋に誰が住んでいるかを把握している住人がいた場合は、「ギャー。泥棒だ。強盗だ。強姦魔だ。ギャー」と騒がれ、やっぱり一晩留置場で過ごさなければならない危険が出てくる。


そこで、最終的に僕が行き着いたもっとも安全な方法は、こっちの手のうちをすっかりさらしてしまうということであった。

自動ドアが他の住人、関係者の出入りによって空いた瞬間、「ジョルトコーラ♪ジョルトコーラ♪」と口ずさみながら入っていくのである。

もちろんオリジナルソングだ。

そうすると怪しいとは思われるが、まあおそらくはジョルトコーラが好きな変わった人なんだろうとドアを開けてくれた人が悟ってくれるので比較的トラブルにはなりづらい。仮に怪しい目でじっと見られたら「いやー、ジョルトコーラはここしか売ってくれなくて。はは」と言い、速やかにジョルトコーラを買ってマンションを後にすればいい。


ちなみに、ここまで苦労して買うのだから、さぞ僕がジョルトコーラを好きなんだろうと思うかもしれないが、僕は正直言ってジョルトコーラが好きではない。

むしろ、世界で一番憎んでいる液体がジョルトコーラだ。

核兵器と紅ショウガと顔がイケてる男子と上級生、テスト、レポート、ジョルトコーラだけは一刻も早くこの世から消えてほしいと切に願っている。


しかし、何故そんな忌々しきジョルトコーラを必死こいて買いに行くのかというと、田所さんが命令するからである。

いや、田所さんだって別にジョルトコーラが特に好きではないはずだ。

その証拠に僕がジョルトコーラを買ってくるのを、コカコーラを飲みながら待っていたりする。

時には午後の紅茶を飲みながら待っていることすらある。

そして、僕が必至こいて買ってきたジョルトコーラを「御苦労」と一言言い、そのまま冷蔵庫にしまう。

その時にちらりと見えるのだが、冷蔵庫の中には明らかにジョルトコーラが数本入っている。

それは明らかに僕が以前必死こいて買ってきたジョルトコーラだ。


それならば、何故わざわざ後輩にジョルトコーラを買いに行かせるのかと言うと、それこそがまさに田所さんの田所さんである所以だ。


田所さんはむちゃくちゃに性格が悪い。


喉が渇いたと思うと「喉渇かねえか?」と聞き、僕が「いや、全然大丈夫です」と言うのに構わず、小銭をチャリンと手渡し、「ジュース買ってきて。お前のぶんも買ってきていいから」少し気前のいいところを見せつつ、その1,000倍過酷な命令をくだす。

後に続く言葉があの忌々しい「俺、ジョルトな」なのだ。


こうして、僕はいつも文京区から豊島区まで自転車を走らせてジョルトコーラを買いに行く。


田所さんのチョイスはいつも絶妙である。


買うのにすごく苦労するが、何とか探し出して買えるくらいのものを独自の嗅覚で探し出し買いに行かせる。

なので、「そんなものはもう売っていません」などとは軽々しく口に出せない。

少し前は鉄骨飲料を買いに行かされた時もあったし、メローイエローを探させられたこともあった。

「すいません。ありませんでした」などと言うと、「ちゃんと西早稲田3丁目まで探したか?」などと聞いてくる。

行ってみると売っているのである。

悔しいことに。

田所さんのジュースの旅は僕の知る限りスコールから始まり、鉄骨飲料、アンバサ、メローイエローを経由して、今はジョルトコーラに落ち着いている。


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