<キール>
イヴァン様と狼たちの助けを借りて、フェオドラ様とニコライをひとまず城の外へ連れ出した。狼は役目は終えたと言わんばかりに、後も見ずに森目指して駆け去った。
イヴァン様が父に連絡していたのだろう。父がヴォルコフ直属の精鋭軍五名程と乗り手のいない馬を二頭連れて城門前に控えていた。
「キール、久しぶりだな。今まで何をぼんやり遊んでいたのだ?」
「父上こそ、もっと人数を揃えて、一気に城を取り戻せば良いものを」
「大人数で詰めかけたら、バーベリにバレてしまうではないか」
「バーベリの家族を捕らえましたか?」
「残念ながら、逃げられた……」
「二人とも、もう良いでしょう。マルティン、ご苦労でしたね。バーベリの出方次第では、すぐにも兵を率いて総攻撃をかけなければならないでしょう」
フェオドラ様は城を振り返り、イヴァン様に目を止めた。イヴァン様は口がきけないとでもいう様に、娘であるフェオドラ様を見つめたきり黙っている。父は精鋭軍を先に行く様促した。「しかし……」と渋る兵士に、
「私とキールがいるのだから、大丈夫だ。すぐに追いつく」
と背中を押した。周りに人がいなくなってから、フェオドラ様はイヴァン様に走り寄り、跪いた。
「お父様、助けに来ていただき有難うございました。再びお会いできる日が来るとは思ってもおりませんでした」
イヴァン様は黙って頷いた。立ち去ろうとした背へフェオドラ様が縋りついた。父が私の背を押し、二人から目を逸らす様促した。父も私も二人に背を向け、静かにその場を離れた。
イヴァン様の走り去る足音に、いち早く気づいた為振り返ると、フェオドラ様の目の縁が光っていた。
「さぁ、一旦私どもの城へ参りましょう。そろそろ、バーベリがフェオドラ陛下の不在に気づく頃です」
無事にヴォルカ城へフェオドラ様をお連れする事が出来た。これで、晴れてイリーナに逢える。そう思うと、疲れも霧散し城内に駆け込んだ。しかし、イリーナは出迎えてくれなかった。
「マーサ! イリーナがどこにいるか知らないか?」
「昨晩、寝不足だから起きて来るまで起こさない様に、と言われておりますので、まだ眠っていらっしゃるのでは?」
「もふもふ」がなかったから睡眠不足だったのだろうか、それとも具合でも悪いのかと心配になり、走って彼女の部屋まで行き、気を取り直して静かにノックをしたが返事が無い。
何か怒らせる様なことをしただろうかと、頭の中を反芻するが、何も思い当たる事がない。もしかして、ソフィアとの婚約発表を勘違いしたのだろうか……。言い訳の言葉と、泣いてしまった時の慰めの言葉を頭の中で準備する。
何度ノックしても、返事がなかった。息を吸ってから、「入るよ」と声をかけて扉を開け、部屋の中の音を探ったが、静まり返っているばかり。
それどころか、部屋の中にはイリーナの気配が無かった。急いで寝台まで行くと、寝具が整えられたままであり、人が眠っていた様子がない。嫌な予感がした。




