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<イリーナ>

 公爵もアキムも誰もキールの式を止める為に動こうとしないのを見て、いてもたってもいられなくなった。結婚式を阻止しようと、一人でツアーモック城に飛ぼうと決心した。お祖父様は風の様に走り、一日もかからずに着いた。私はあんなに早く飛ぶことが出来るだろうか。けれど、式に間に合わなかれば行く意味が無い。


 大鷹の大きさになり、飛翔する。翼が風を呼び起こす。風に後押しされ、風に乗り、想像以上の速さで飛んでいる。私が通り過ぎると、旋風が起きるらしく小鳥も山鳩も、空中でもんどり打って、落ちていった。ごめんなさい、と心の中で謝る。



 結婚式の鐘がなっている最中に王城に着いた。こんなに早く飛べると思っても見なかった。鐘が鳴っていると言う事は、まだ式は始まったばかりで最後まで終わっていないはず。


 小さくなって、開いている窓から玉座の間に飛び込んだ。結婚式当日だというのに、誰もいない。しんとしている。

もちろん、お姉様もキールもいない。倒れた花瓶、床に散乱する色とりどりの花々、装身具、そして、血。それでも、誰も居ないということは、怪我を負っただけで済んだということだ。なにがあったのだろう? キールは? お母様は?


 自分の部屋に小鳥の大きさのまま飛んでいき、誰も中にいないことを確認して入り、元の大きさに戻った。動きやすそうな服を選び、腰に剣を佩く。窓の外から音がした為覗いてみると、家令や貴族たちが競う様に庭に飛び出していくのが見えた。後ろを数頭の狼が追い立てている。

 玉座の間に人がいなかったと言うことは、お祖父様が狼たちを引き連れて、キールを助けに来たのだ。キールは無事な筈。では、私もお母様を救いに行かなくては。


 髪を布で覆い、ドレスではなく剣や乗馬の稽古の時に履くズボンを履いて、廊下を走っていくと誰も私だと気が付かない。気づかれない以前に、狼たちに追い立てられて、玉座周辺の部屋は人っ子一人居ない。


 腰の剣に手をかけたまま、地下の方へ慎重に歩を進める。人が現れたら、切り付けなければならない、と考えると腰がひける。出来れば、誰にも会わずに済めば良いけれど……。緊張しすぎて、心臓が口から出て来そうだった。角を曲がったところで、家令に遭遇した。チラリと私を見た様だったが、慌てた様子で走り去って行った。


 ホッとした事に誰にも邪魔されず、地下まで辿り着いた。地下の入り口に一人だけ見張の兵が事切れて倒れていた。首から流れた血が水溜まりを作っている。兵士の腰に下がっている筈の剣が無かった。二つあるエメラルドと訓練のおかげで、魔物になることはなかった。


 地下の部屋の扉は開け放たれていた。中を覗くと、誰もいない。きっと、お母様は助け出されたのだ。眺めている場合ではないとわかってはいても、懐かしさが勝って中に入ってしまった。


 ここに閉じこもっていたのが何年も前のようが気がした。お母様に会いに来た時は気が付かなかったが、床には埃が積もり、テーブルも汚れていた。ちゃんと食事はされていたのだろうか。女王であるお母様を地下牢と同じ扱いで閉じ込めておくなどとは……。


 バタンと背後で扉の閉まる音がした。慌てて戻って扉を押したが、びくともしなかった。外から鍵をかけられていた。


「ようこそイリーナ姫、お待ちしておりましたよ。あなたの方から出向いて下さるとは、私はなんと運がいい!」


バーベリの勝ち誇った声が、地下に響き渡った。

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