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<キール>

 バルコニーの方から微かな異音がした。甲虫が壁や床に当たる時よりも、もっと硬質な音。


「キール? どうかして?」


 肩から顔を上げ、不安そうに問いかけてきたソフィアを引き剥がす。肩口が急に冷えた。そうだ、肩を温めていた人はイリーナではない。けれど、人の体温は人を落ち着かせる。そして、不意に温度を失った時の喪失感。雑念を振り払う。バルコニーの方から、呼ばれている様な気がした。


「バルコニーの方で音がしたから、見に行ってくる」


 兵士二人は鎖が床につかないくらい離れて付いてきた。今の城は、どこがどうと言えないが、薄気味悪かった。そのせいか、兵士も用心しているのだろう。影だけが、廊下を動いていたと言う噂を聞いた。

バルコニーの床の隅の暗がりに、黒い小さな生き物が落ちているのが見えた。一見、鳥のように見えるが鳥ではない。月明かりもなく曇っている為、兵士たちには何も見えていないに違いない。


もしかして、と言う予感はあった。急いで窓を開ける。


窓を開けた途端に、匂いで分かった。走り寄って、愛しい小さな黒い魔物を手の上にそっと乗せ撫でようとすると、羽をバタバタさせ鋭い嘴で手のひらを突かれた。口を聞かない事と、その様子から何か怒っているのだろうと分かった。手のひらから血が滲み出した。血を見ると、イリーナは急にオロオロし始めた。


「ごめんなさい、傷つけるつもりは……」


血で彼女を汚さない為に、手の平を舐めた。イリーナはビクッとして、指先の方へ後退りして、手のひらから落ちそうになる。もう片方の手で落ちないよう後ろから支えると、イヤイヤをする様に首を振っていたが、会えた嬉しさのあまり、構わず頭を撫で嘴にそっと唇を押し当てた。


「やめて……。元に戻ってしまう……。何故繋がれているの? 何故、お姉さまと踊っていたの?」


小さな恥じらうような声がした。こんな所でなければ元に戻してしまいたかった。後ろから、ソフィアと兵士が近づいてくる音が聞こえる。説明している暇はない。手の平に息を吹き込むように静かに、囁いた。


「時間がないから聞いて。フェオドラ様はお元気になり無事だが、地下の部屋に閉じ込められている。私は寝る時まで鎖で繋がれ、見張られているから動けない。もし出来たら、ヴォルコフの部屋にいるルカだけでも逃してやってくれ。人質が多いと身動きが取れない」


「わかったわ……」


嘴を掌に擦り付けてくる。ひんやりした嘴の感触が愛おしい。行かせたくなかったが、指で小さな背を撫でて声をかけた。


「安全なヴォルカ城に留まっていてほしい。辺境にバーべリの家族が隠れていると、アキムに伝えて。さぁ、行って」


嘴を縦に振ったのを合図に、宙に投げ上げる。イリーナはそのまま飛び去った。見えなくなるまで目で追い続けた。


「キール、何かいたの?」


「小鳥が、窓ガラスにぶつかって落ちていた」


 手のひらにいつまでも、艶やかな羽の感触が残っている。くすぐったくて、手のひらを握りしめた。

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