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<キール>

 着替える時も、入浴中も兵士二人が交代で首枷からつながる鎖を握っている。

入浴前に、試しに外して欲しいと頼んだら、「一時も目を離さぬようにと言われております」と、とんでもない返事が返ってきた。目を逸らさず監視されるので、仕方なく自分が後ろを向くしかなかった。


 フェオドラ様は「自分のことは気にしないで、思うように行動しなさい」と言ったが、そんな事をしたら危害を加えられてしまうに違いない。イリーナがそれを知ったら、嘆き悲しむだろう。



 身動きが取れなかった。今日の返事をなんとか引き伸ばせないだろうか。部屋の中で、鬱々と考え込むより、歩けばマシな案が浮かんでくるかもしれない。ギリシャの哲人たちも歩きながら思考したと言うではないか。


 部屋の外に出ることは禁止されていないらしく、兵士に止められることはなかった。しかし、鎖を握った兵士が二人どこまでも後ろからついてくる。まるで犬の散歩だ。

イリーナが捕らえられているのならば、匂いでわかるかもしれないと、イリーナの匂いを探すことにした。



 舞踏会室に人影が見えた。中に入ると、ピアノの椅子にソフィアがぼんやりと座って、月を仰いでいた。一瞬、イリーナに似ていると思ったが、やはり違うと思い直した。あぁ、イリーナに会いたい……。

鎖のぶつかり合う音に気づいたソフィアが、立ち上がって近づいてきた。


「キール、どうしたの?」


「ちょっと散歩がしたいと、この人たちが言うのでね」


嫌味を言ってみたが、兵士たちには通じないようだ。


「キールがこんな目に遭うなんて……。ごめんなさい……」


ソフィアを責めても仕方がない。発端はソフィアの勘違いだったとしても、仕切っているのはバーベリなのだから。


「何か私で力になれることがあれば良いのだけれど……」


私は首を振った。ソフィアにバーベリを御する力はない。操られているソフィアを少し哀れに思った。


「キールにお願いがあるの。一緒に踊って欲しいの、今ここで」


「私は良いが、後ろの鎖持ちは?」


バーベリがフェオドラ様を監禁してから、舞踏会はなくなっている。きっと、踊ることの好きな姉妹だから踊りたかったのだろう。ソフィアから、何か聞き出せる良い機会だと思った。


「バーベリ殿に言われているでしょう? キールと私は結婚するかもしれないって。だから、少しの間、鎖を離しなさい」


ソフィアが兵士に命じた。私が何か言おうとすると、ソフィアが目で黙っていて、と訴えかけてきた。兵士たちは無言で、鎖を離した。


曲は、イリーナと最初に踊ったあの曲だった。


驚くべきことに、兵士の一人がピアノの椅子に座って、多少ぎこちなくはあるが、あの曲を弾き始めた。


お互いにお辞儀をしてから、ソフィアに手を差し伸べると、ソフィアは反射的に私の手を取った。けれどすぐに、ハッとして、手を離した。私が無言で見つめていると、ソフィアは恐いものにでも触れるように恐る恐る、私の手を取る。踊り始める。ソフィアはぎこちないピアノに合わせて、優雅に踊った。


私は踊りながら少しずつ、ソフィアを兵士から離れた窓辺に誘導した。


「バーベリの目的は、王家の乗っ取りか?」


小声で尋ねた途端に、ソフィアは夢から醒めたような顔をした。そして、諦めたように頷いた。


「バーベリはそんな野心家だった?」


「分からない。お母様が倒れてから、あっという間だった……。ヴォルコフ公爵も領地に戻られていて、誰も止めるものがいなかったし、バーベリがこんな事をするなんて、誰も思ってもみなかった……」


「ソフィア、バーベリの家族がどこにいるか知っているか?」


「……キールが知りたいのなら、調べるわ。明晩、またここで……」


いつの間にかピアノの音が止まり、鎖が金属同士が擦れ合う音だけが静かに響き渡っていた。

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