<キール>
「キールはイリーナとの婚約発表があってから変わったわ……」
ソフィアが呟いた。取り繕う相手がいなくなったため、自然と昔のような口調になってはいるが、私の方を見ようとしない。
「ソフィアが見ていたのは、私の一面だけで、私自体は何も変わってはいない」
「一面だけ? イリーナは生まれた時からあなたが側にいたから違うというのでしょう? イリーナなら、あなたの事をよく理解していると?」
「そんなことは言っていない」
ソフィアは自分の内面に向き合ってしまっているのか、独り言の様に呟いた。
「昔三人で遊んだ時も、一番小さいイリーナはすぐに泣いてしまうことが多くて、その度にあなたが飛んで行って慰めているのを、いつも羨ましく思って見ていたわ。私は姉だから、泣きたくてもイリーナが先に泣けば一緒になって泣くわけにもいかず、いつも我慢してあなたと一緒になって慰める方へまわったわ」
「ソフィアは我慢していたんだね……。気が付かなくてごめん。そんなに薄情な行動ばかりとっていた?」
「イリーナに対しては特別だったと言いたかったの。イリーナが怖がっていなかったり、泣いていなければ、怖がっていた私を気にかけてくれたり、優しかった」
「それは良かった……」
女性にはできる限り優しく紳士的に振る舞う、と言うのが我が家の家訓だ。そろそろルカの所へ戻って、どうするか考えなくては。無意識に立ち上がっていた。
「おやすみなさい、キール」
「あぁ、おやすみソフィア」
「昔のように、おでこにおやすみのキスをしてくれないの?」
イリーナが捕まってしまったのかどうか気にかかっていた為、無意識に言われるままにおでこにおやすみの挨拶をした。ソフィアのおでこが、ほんのり桃色に染まっていくのが目に入った。
「……イリーナがバーベリに捕まってしまったかどうか知っている?」
「知らないわ」
先ほどと違い、ソフィアの答えはそっけない。仕方なく音を立てない様にそっと扉を閉め、部屋へと戻った。




