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<キール>

あろうことか、首枷をつけたままバーベリとソフィアと一緒に食事をさせられた。屈辱だ。バーベリめ、後悔させてやる……。チラリと横に視線を向けると、相変わらずソフィアは青ざめたままだ。


隣に座ったソフィアが小声で話しかけて来た。


「キール、ごめんなさい。侯爵に食事の間だけでも、あなたの首枷を外すようお願いしたのだけれど、聞いてもらえなかったの。さっきバーベリ侯爵が言っていた事は本当なの?」


「どの話?」


とぼけてみたが、駄目だったようだ。


「暗殺を……」


バーベリに睨まれて、ソフィアは黙った。


「さぁ、侯爵の勘違いだと思うけれど」


ソフィアは小さく頷いた。


「そうよね、キールは優しいもの。人を殺すなんて……」


バーベリの耳には私たちの会話が届いていたようだった。


「ソフィア姫、キールは近衛隊長ですぞ。必要とあれば剣を取って人も殺すでしょう。わかっておられますか? あなたのお祖父様であるイヴァン様もお強かったと聞きます。姫は何も出来ず、国を守ることもできない優男と結婚するおつもりですか? キール殿と結婚したいのではなかったのですか?」


ソフィアは赤くなったり青くなったり忙しそうだ。


「バーベリ、悪いが私の相手はイリーナしかいない」


本人を相手に言えれば良かったのだが……。それを聞いたバーベリはとんでもないことを言い出した。


「キール殿はイリーナ姫を捕らえれば、言うことを聞くかもしれませんな」


バーベリはソフィアの存在など気にもかけぬ様に言い放った。


「イリーナの行方は未だ不明。どうやって捕える?」


「イリーナ姫はどうやら、ヴォルカ城にいるらしいですな? キール殿?」


今度は私が青ざめる番だった。バーベリに居所は知られたとしても、イリーナはヴォルカ城内にいる限り安全なはず。


「ほう、知らなかったな。アキムが探し出してくれたのかな。お知らせいただいた事に感謝します。では、私は婚約者に会いに城に帰らなくてはなりませんね」


「その手間を省いて差し上げますよ。なんとしても、愛しい婚約者殿にこちらに来て頂きましょう。多少は痛い目に遭うかもしれませんが……」


気がつくと、バーベリの背後から太った首筋にテーブルナイフを当てていた。後ろで首枷の鎖を持っていた兵士が転んでいる。 


「素早い身のこなし、さすがですな。ただ、私に何かあるとフェオドラ様に危害が及ぶばかりではなく、イリーナ姫もどうなるかわかりませんよ……」


「喉に蝿が止まっていたので、取り除いて差し上げたまで」


ナイフの先についた蝿を、バーベリの皿の上に置いてやった。イリーナはもう、バーベリの手の者に捕まってしまっているのだろうか。そう考えるとナイフを置く手が震えた。イリーナに傷ひとつでもつけようものなら、真っ先に血祭りに上げてやる。いっその事、一同が揃った所でバーベリ一味を……。


 完全に頭に血が昇ってしまって物騒な顔つきをしていたらしく、バーベリは早々に食事を切り上げて、部屋から逃げるように出て行ってしまった。ソフィアは俯いて両手を膝に置いて、凍った様になっていた。

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