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<イリーナ>

「ゴカイニン」の件を知らないアキムが逐一、手に入れた情報を教えてくれて、とても助かった。私は恥ずかしくて自分からキールのことを聞くことができないでいたから。


 マルティンが偵察に出していた者が戻って来た。キールは一旦城から近衛隊の宿舎に戻ってきていた。近衛隊を率いて城に出向くと、再び、一人で登城するよう言われ、一人で城内に入っていき、それきり、だと言う。

近衛隊も、城内がどうなっているのか分からない為、待機と言われ、待機している。キールは帰って来ない。帰ってくるのが待ち遠しいし、早く無事な顔を見たかったけれど、顔を合わせたら、どう振る舞えばいいのかわからなかった。


 気を落ち着かせるために、一人で薔薇が咲き誇る庭園の亭に座る。キールが帰ってきたら、何事もなかったかのように知らん顔をして迎えよう、そう心に決めた。いずれ、結婚の儀を行うのだから、その時まで、心の準備をする猶予がある。心の準備が必要……。

 

 溜息をついて庭園の外を眺めていると、沼地で見かけた黒に近い灰色の大きな生き物が目に入った。向こうも私を見ているのがわかる。ゆっくりと、大きな生き物が近づいて来る。キールのような大きな狼だとわかった。何故か、怖くなかった。お互いの瞳の色がわかる距離まで、近づいてきた。キールと同じ金色の瞳。狼が何か言いたそうに口を開いた。


「イリーナ姫!」


ジーナが叫んで駆けてきた。一緒に来た兵士は銃を持っていた。途端に大きな灰色の狼は走り去った。ジーナは息を切らせながら言った。兵士は銃を撃ったが、当たらなかったようだ。何故かホッとした。


「大丈夫ですか? お怪我は、ありませんか」


「今のは?」


「あんなに大きな狼に襲われたら、ひとたまりもありませんよ。私がいる時にイリーナ姫に何かあったら、兄さんに申し訳がたちません! さぁ、城の中に入りましょう。一人で城の外に出ないと、約束してください。庭であってもです」

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