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<キール>

「キール、大人しくしていたまえ。見ての通り、こちらにはフェオドラ様がいる」


「どういう事だ? フェオドラ様はご病気だったのではないか? 何故縛られている?」


しらを切ってそう言うと、


「残念ながら、まだご病気のままでな。変な事を口走って、暴れたりなさるので、仕方なく大人しくして頂いた。キール、フェオドラ様を傷つけたくなければ、ソフィア姫の王配になりたまえ」


どうなっているんだ? 何故フェオドラ様が縛り上げられているんだ?


「不思議そうにしておるな。フェオドラ様が突然現れたので、驚いたよ。だが、イリーナ姫が裏切り、その姫を不憫に思ったお前も、陛下を裏切ったと申し上げたのだよ。陛下はあっさり信じたので、こうしておる」


「何を根拠に、私が裏切ったというのだ? 家臣たちは?」


よく見ると、見知った顔の家臣は殆どいなかった。バーベリの家令や兵の入れ替えが完了したのだろう。


「お前が裏切ったと言う証拠に、フェオドラ様を暗殺しようとしたルカとやらが、お前の部屋にいた。それを聞いて、フェオドラ様はお前の裏切りを信じたのだ」


なんて間が悪いんだ……。


「ルカは罪を悔いて、フェオドラ様の治療の為に来たんだ。だから、フェオドラ様は回復した」


「ルカとやら、本当かね? 罪を悔いて? 何故?」


バーベリが馬鹿にしたようにルカに聞いた。


「イリーナ姫が母の為にトロフィム王を殺してくれたから、代わりに姫の母親を助けようと思ったんだ」


「なんと、イリーナ姫がトロフィム王を?! あのか弱い姫が? どうやって?」


良い具合に、バーベリはルカの言葉を信じていないようだった。


「違う、トロフィム王暗殺は私がやった。あのイリーナにそんなこと、できる訳が無い」


ルカに目で黙るように合図を送った。通じただろうか。

バーベリは頷いた。


「やはり、キールが受けた密命は暗殺だったのか。私が知りたかったのはそこだったんだよ、キール。我が国が攻め込まれそうになったり、女王や大臣が狙われた後、必ず都合よく相手国の王や、大臣が亡くなり、我が国の平和が保たれ続けた。そんな都合の良いことばかり起こるはずがない、と思っていたのだよ」


「もしその話が本当だとして、暗殺者である私をソフィアの結婚相手にしようとは、どう言う了見だ?」


「君には、これからもその能力をこの国のために、有効に使ってもらわなければならない。フェオドラ女王も、だからこそ、次期女王であるイリーナ姫の王配にと君を指名したのではないかね? 特に姫は君と仲良くなるように育てられているからね。きっと小さい頃から素質があったのだろう」


 謎解きの答えを明かすように、どうだねと言わんばかりにバーベリが答えた。親切に答えを訂正するつもりはなかった。私はソフィアに一歩近づいた。


「ソフィアは結婚相手が、暗殺者でも構わないと言うんだな?」


ソフィアはこの話を始めて聞いたようで、ショックを受けているようだった。顔色が真っ青で、今にも倒れそうだ。


「ソフィア? どうなんだ?」


 イリーナと違って泣いたことなどないソフィアが、蹲って顔を手で覆った。肩が震えている。嘘泣きかと思って、そっと顔を覆った手を離させると、本当に泣いていた。人を殺した私のことが怖かったのかもしれない。申し訳なく思って、そっと肩に手をかけると、振り払われてしまった。振り払っておきながら、「あ、」といったきり、呆然と振り払った自分の手を見ている。


「イリーナ姫は生きているんだな? どこにいるんだ?」


気をつけていたものの、ルカが大事な情報を与えてしまった……。ルカに言い聞かせるように答えた。


「私がデルベルグ城に潜り込んだ時には、イリーナはデルベルグ城にはいなかった。だから、どこにいるのかは知らない。私も探しているのだが、未だ見つからない。知っていたら教えて欲しいくらいだ」


ルカは黙っていてくれた。


「フェオドラ様をどうするつもりだ」


「もう一度、地下に戻って頂く。今度は出てこられないように、倍の兵士を置いてな。お前が逃げれば、フェオドラ様の命はない。もう一日時間をやる。考える時間はもうそんなにないぞ」


「ソフィアがその様子では、私をソフィアの王配に、などと言うのは無理ではないか?」


「こちらには人質がいるんだ。あまり変な事を言うものではないぞ。キールには部屋に戻ってもらえ」


「キール、私の事は気にせず、思うように動けばいいのです」


フェオドラ様が唇をかすかに動かし呟いた。隣にいたバーベリにも聞こえなかったはずだ。だが、私の耳にはしっかり届いていた。

剣を取り上げられ、バーバリの兵士に囲まれ、部屋に戻った。三階の私の部屋の入り口に四人兵士が立っていた。


 今頃、バーベリがソフィアに改めて女王として即位し、私を王配にするよう決心をつけさせようと、躍起になているに違いない。

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