<キール>
小さい食事差し入れ口と仔狼になった体の大きさを見比べた。華奢なイリーナでも逃げ出すことは不可能な大きさだ。幅30cm、高さ15cm、奥行き30cmくらいしかない。ニコライが私の首の後ろを掴み、全く容赦なくむぎゅむぎゅと、無理やり食事差し入れ口に突っ込まれる。
「ちょっと、無理があるようなんだが……」
「キール、もっと小さくなれんのかね?」
「頭がある以上、無理ですね……静かに! 誰か来るから、おろして下さい」
ルカの匂いだった為、急いで人の姿に戻った。扉を開けたルカが言った。
「やっぱり、ここだったんだ。戻ってこないから、女王のいそうな場所に来たんだ」
ルカは、見張りの兵士に筋肉を弛緩させる毒を塗った吹き矢を使った。中枢神経の抑制を増強するため、眠くなる作用を利用して、眠るまで待ってから、地下牢まで降りてきたという。早速、薬を飲ませる為にフェオドラ様に近寄ろうとしたルカの前に、ニコライが立ちはだかった。
「そこのじいさん、薬を持ってきたんだから、邪魔しないでくれよ」
「キール、この失礼なやつは誰じゃ?」
簡単にルカのことを説明し、治療してもらおうと、城の中まで連れて来た事を話した。ニコライはルカに治療させる事に猛烈に反対した。
「この者は暗殺者ではないか!」
「だからこそ、どの毒を使用したか分かっている。ルカにしか治療は出来ない」
頭髪のないニコライは頭まで真っ赤になっている。
「ニコライ、このまま手をこまねいていても、フェオドラ様は悪くなる一方。他に選択肢はないと思うが」
ニコライはフェオドラ様とルカをしばらく見比べてから、渋々ルカが治療することを許した。ルカはフェオドラの状態を見て、心なしか青ざめた。
「ルカ? 大丈夫なのだろうな?」
「思っていたより、状態が悪い……まぁ、あの毒で死んでいない方が驚きだけどね」
「このっ、小童!! フェオドラ様に向かって……」
「ニコライ、静かに。ルカ、ヘレナが自由になったのだから、フェオドラ様を助けてくれるんだろ? それに万が一のことがあれば、イリーナが嘆き悲しむ」
「言われなくても、分かってるよ……」
ルカは調合した薬をフェオドラに飲ませ、ニコライに薬を渡した。
「これを、一日三回飲ませるんだ。三日間飲ませて、あとは運を天に祈るんだな」
「三日間はこの城で様子を見なければならないな」
見咎められることなく無事に部屋に戻ることが出来た。ルカは部屋に戻った途端、私の格好を見てゲラゲラ笑った。
「それにしても、さっきまで我慢していたけれど、その服、小さすぎやしないか?! それ、僕が着ていた服にそっくりだ。貴族の間ではサイズの小さい服を着るが流行っているのか?」
ルカがいた部屋に置いてあったルカの服を着ていたからだ。理由を話すわけにはいかないので、仕方なく笑わせたまま放っておいた。
ルカの薬を投与してから三日目。様子を見にいくと、小窓からニコライの憔悴しきった顔が見えた。




