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<キール>

ディナーの席に連れていかれると、案の定、ソフィアの他にバーベリ侯爵がいた。他には国の中枢からは外れている子爵や男爵が数人席に着いているだけだった。バーベリに賛同している貴族は思ったより少なさそうだ。


 私の隣にはバーベリ侯爵、長方形のテーブルの短い辺の所には、フェオドラ様ではなく、濃いオレンジ色ドレスを身に纏ったソフィアが座っていた。バーベリは金に近い栗色の髪に、栗色の瞳で確か、二十歳と十三歳の息子、十七歳と十五歳の娘がいる。


「キール殿、久しぶりだな。体調はもうよろしいのか? ご家族はお元気かね?」


「お陰様で。父はどなたかが拒んでいるため、登城出来ませんが元気ですよ。城へ行かせろと騒いでいるから、そのうち、押しかけてくるかもしれませんね」


「それは脅しかね?」


「お好きにお取り下さい。何故、この席にフェオドラ様がいないのですか? 私は具合が悪かった為、最近の出来事を把握していないのですが、説明していただけますか?」


 これでもかと並んだ肉料理の数々は、まだ城がきちんと機能している証拠だ。それにしては、ほとんどの貴族を出入り禁止にしているせいか、人を集めたにしては席についている人数が少なすぎた。ソフィア派はこんなものなのか。


「女王陛下は、具合が悪いため誰にもお会いしません。イリーナの事は先ほど話した通りです」


ソフィアが硬い表情で答えた。まるで暗記した文をそのまま読んでいるようだ。


「では、何故、あなたたち以外の登城を禁止している?」


侯爵がソフィアに代わって答える。


「それは、不穏な動きがあると聞いているからだ」


「ほぉ、ヴォルコフはオルロフ王家から最も信頼されていると言うのに、登城禁止?」


「ヴォルコフ家の一部に反乱の疑いあり、と聞いた」


バーベリの苦しい言い訳だと見えた。


「我が家はもとより、ヴォルコフ一族が反乱など、あり得ない。本音のところをお聞かせ願えませんか。取り繕った話は時間の無駄だ。何が望みですか?」


バーベリはちらっとソフィアを見た。ソフィアは軽く頷いたのを見て、バーベリが続ける。


「次期女王とされたイリーナ様も残念ながら、下男と逃亡したまま行方不明。女王陛下も国を治められる状態でない今、我々は国を守る為に、力を合わせなければならないのはお分かり頂けるであろう」


嘘だと思った。国を守る為なら、海外の兵を城内に入れるはずがない。ソフィアを傀儡にするつもりだろうか。我が国を他国に売り払う気なのか。


「イリーナの出奔、それに関連するお母様暗殺未遂を隠す為にも、しばらくの間、私がこの国を治めようと考えています。もちろん、お母様が回復するまでの間です。キール、あなたの力が必要なのです」


ソフィアは悲痛な顔を装って、私の方を見た。返事をせずにいると、先を促されたと思ったのか、バーベリが跡を継いで話を続けた。


「その為にも、キール殿にソフィア様と結婚していただき、王配となってもらいたいと」


「ソフィア姫のお相手はマクシムと決まっているはず。婚約者のいる私などではなくバーベリ殿のところにも、ちょうど良い年齢の子息がおられるのでは?」


バーベリが焦って言葉を継いだ。


「いや、もちろんキール殿がイリーナ様の事を心配している事はよくわかっている。それ故、いきなり、ソフィア様と結婚と言われても、頷けない事は承知している。けれど、国を乱さない為には、お二人に結婚していただくことが重要かと。キール殿は、大事な役割を担っていると聞いている」


ソフィアとイリーナは一見似ているが、ソフィアはもっと俗っぽい。美醜を問われれば、美しいと言える。だが、イリーナは魔物であるにも関わらずどこか透明感があり、この世のものではない妖精の様に見える。いつも一緒にいる私の欲目かもしれないが……。ソフィアが私の顔色を見ながら言い添えた。


「あなたが、イリーナの事を大事に想っているのは知っているわ。私では比べ物にならないことも。でも、考えてみて。イリーナはもういない。国を存続させなければならない。どうするのがいいか、考えてみて」


バーベリはどこまで何を知っているのだろう。


「考える時間がほしい」


そう言って席を立つと、部屋の前まで追いかけてきたソフィアに後ろから抱きつかれた。


「キール、私もずっとあなたの事を……」

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