表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/133

<キール>

 イリーナの婚約者の名前を聞いて、どこかで聞いたことがある名前だと思った。フェオドラのための薬の用意をしながら、やっと思い出した。イリーナが真っ黒な仔犬を「キール」と呼んでいたことを。いつも手元から離さず、眠る時も一緒に眠っていたことを思い出した。


「イリーナは、旅の途中で拾った犬にあんたの名前をつけていたよ」


「それだけ、私のことが恋しかったのだろう」


いけしゃあしゃあと言ってのける男を見て、勘違いじゃないのか、と言おうと思った。けれど、言われてみれば、イリーナはしょっちゅう「キール」と呼んで、犬に話しかけていた。


「兄様、と言っていたくらいだから、小さい頃からよく会っていたのか?」


「兄妹のように育てられ、いつもそばにいるのが当たり前だった」


 てっきり、イリーナは僕が来るのをずっと心待ちにしていてくれたのだと思っていた。地下牢に、キールが通って来た時の事を思い出してみると……。


 イリーナはキールに「添い寝」をせがんでいた。キスをされても嫌がらなかった。恋人同士のように戯れあっていた。あたり前の様に抱き上げられ、首に手を回していた。母さんの所で、そっくりな奴を見つけて、血相を変えて走っていき、飛びついていた。


 初恋のイリーナを探し出し、自力で城から連れ出したことで有頂天になり、イリーナの態度や言葉を自分が都合よく解釈していた事に気がついた。不都合な記憶は、傍に押しやり、忘れていた。イリーナがずっと好きだったのは、婚約者のこの男だったんだ……。


 そう気がつくと、急にこの男の前にいるのが恥ずかしくなってきた。今すぐ、この場から消えたくなったが、勘違いのあまり、イリーナを今の状況に追いこんでしまったからには、少しでも状況を回復させるのが、自分にできる事だと言い聞かせた。



一つだけ疑問があった。


「母さんの居館で、ラドミラと一緒にいたのはあんたか?」


「そうだが」


「イリーナがいるのに、何故ラドミラなんかと……」


「イリーナを探している最中に、事故に遭い記憶がなくなっていた所をラドミラに連れられて、カラナス居館へ行った」


「ずっと、イリーナを探していたのか?」


「もちろんだ。私がゲストルク城から彼女を連れ戻した」


「どうやって?」と聞こうと思ったが、ラドミラを利用したのだと気がついた。

僕はゲストルク城以降、イリーナの行方を掴めずに諦めてしまった。

正確に言えば諦めたと言うより、イリーナが魔物だとわかって怖くなってしまった。この男は彼女が魔物だと知っているのだろうか?


「イリーナが、その、姿を変えることを知っているのか?」


キールは黙って頷いた。完敗だ……。フェオドラを助けたら、国に帰ろうと決心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ