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<キール>

 翌朝、すぐにツアーモック城へと向かう事にした。


「キール、無事に帰ってきて。それと、お母様が無事かどうか……」


「大丈夫、ちゃんと調べてくる」


部屋の中でイリーナを抱きしめ、髪に口付けした。


「この件が無事に済んだら、大事な話がある……」


 言うと、頬を染めてこくんと頷いた。その様子があまりに可憐で、できれば後もう一日、出かける日を伸ばしてしまいたくなった。けれど、イリーナはフェオドラ様がどうしているのか、知りたがっている。万が一、フェオドラ様が亡くなっている様だったら、なんと伝えれば良いのだろう?



 見送りに来たアキムが声をかけてきた。

 

「兄さん、さっきから一人で百面相している様だけど、どうしたの?」


恥ずかしくなり「行ってくる」と馬に飛び乗り、急いで城を後にした。



ツアーモック城の近くで、見たことのある顔を見つけた。


「ルカ?」


注意して顔を見なければ、分からなかった。ルカは特徴的な金髪を黒く染めていた。だが、一時期恋敵であった、ルカの顔を忘れるはずはなかった。ルカの方もそうらしい。


「イリーナの……」


「こんな所で何をしている?」


「僕は、母を王から自由にするため、トロフィム王を殺したい、とイリーナに話したんだ。イリーナが城に小姓として入った後、トロフィム王が殺害された。その後、イリーナは城からいなくなった。イリーナが母さんのために王を殺害してくれたとしか思えない」


「それで? 何が言いたい?」


「恩返しをたくて」


「恩返し?」


「一緒にデルベルグ城に行こうとしたら、置いていかれてしまった。きっと、イリーナが僕の為に、トロフィムを殺してくれたんだ。それなのに、俺はイリーナのお母さんを毒殺しようとしてしまった……」


「ほぅ、だからイリーナに恩返しをしたいと? どんな恩返しだ?」


「女王が亡くなったと言う話はどこからも聞こえて来ない。だから、まだ生きていれば、治療を。そうしたら、イリーナは戻ってきてくれるかも……。イリーナは無事なんだろうか? どこにいるか知っている? あんた、婚約者なんだろ?」


フェオドラ様を助けてくれるのであれば、トロフィム殺害は誰がやったかどうかなど些細なことだ。イリーナがやったから、その恩返しというのであれば、そう思わせておけば良い。


「イリーナは私が保護した。だから、もう何処にも行かせない」


それを聞くとルカは項垂れた。ハッとした。イリーナが戻って来ないとわかっても、こいつはフェオドラ様を助けてくれるのだろうか?


「イリーナが戻って来ないなら、恩返しはしないのか? イリーナは母親のことを死ぬほど心配しているぞ。それに、本当に治療をしてくれるんだろうな? 別の依頼を受けていて、治療と偽って、もし生きていたら息の根を止めるなどしないだろうな?」


ルカは私の言葉を遮った。


「そんな事するもんか。だけど、城に入る術もないし、彼女の母親に会うことができるかもわからないし」


「私の小姓といえば城に入れるし、私ならフェオドラ様に近づける」


ルカの話では、トロフィム王が殺された事は、秘されているらしいが、同じ城内にいたラドミラが自分も暗殺される事を恐れて、一番近いカラナス城に戻ってきて話したから知ったという。


ルカは当然、ラドミラが王殺害を私に仄めかしたことを知らない。ラドミラは殺人者が捕まり、自分が殺害を唆したとバレた場合を考えて、カラナス城まで逃げてきたのだろう。

場内はパニック状態かもしれなかったが、まだゲストルク国は混乱に陥ってはいないようだった。


近衛隊を連れてきたが、隊は入れて貰えず城の外の宿舎で待機となった。私は小姓と称したルカを連れて城に入った。ルカにはずっと、顔を伏せているよう言ってある。

門番が身体検査をしようとした為、


「お望み通り、ヴォルコフ公爵家のキールが登城したのに、身体検査とは無礼ではないか」


とあくまで穏やかに言うと、門番は誰かに聞きに城内に駆け込んで行った。もう一人の門番に「お持ちのバスケットだけでも」と言われたが、「いつものように飼っている子犬を連れてきただけだ」と言うと、顔馴染みの使用人が出てきて、通してくれた。


「使用人が殆ど、入れ替えられています。私も、もうじき外に出されるでしょう」


その使用人がそっと耳打ちしてきた。その使用人に、これから、この城で何が起こるか分からないから、抵抗せずに全員バーベリの支配下の者と入れ替わるようにと伝えておいた。



今まで自由に城内を歩き回っていたのだが、今日は兵士に囲まれ、玉座の間へと連れて行かれた。ルカはヴォルコフ家の小姓の間へ連れて行かれた。

入っていくと、ソフィアが、玉座に座っていた。思わず眉を顰めると、居心地悪く感じたのかソフィアは立ち上がって側まで来た。


「キール、イリーナのことがショックで具合が悪かったと聞いているけれど、もう良いの?」


「彼女とは関係ない」


しれっと答えた。私の動向は父とアキム以外は知る人がいない。


ソフィアは、私のいない間に地下室でイリーナが少年と密会し、女王暗殺を企てた上、逃亡したとイリーナを貶めた張本人だ。ソフィアはイリーナが地下室に住んでいた事は知らないようで、密会場所だと思っているようだ。


「キール、可哀想に……あんなに可愛がっていたイリーナに裏切られるなんて……」


「私のことはどうでも良い。フェオドラ様のご容体を知る為に来た。お見舞いの為に登城したのだが」


 ソフィアは驚いて、私を見た。瞳が乾いている。イリーナについて、一言も口にしようとしない私を見て、この話題には触れてほしくないのだと、勘違いした様だった。


「陛下は誰にもお会いしません」


「キールが来たと、伝えて欲しい」


「いくら、キールでもなりません。話ができる状態ではないの」


フェオドラ様は生きている、そう確信した。ソフィアの仲間と、その目的を探って、フェオドラ様を探すためには、相手の出方を見るしかない。万が一、フェオドラ様を人質に取られたら、身動きできなくなる。


「今夜は、城に滞在するでしょう?」


黙って頷いた。城には有力貴族に割り振られた滞在用の部屋がある。オルロフ国の領土の四分の一はヴォルコフの三家が治めている為、ソフィアとしては是非とも私を味方に取り込んでおきたいのかもしれない。父である公爵ではないのが不思議だが……。


「そのバスケットは?」


「飼っている子犬だ」


「キールは昔から、犬が好きだったものね。よく城に連れて来ていた位だし。見せて」


ちょっとだけ蓋を持ち上げて見せる。黒い小さい頭が見える。


「今眠っているから、触らないように」


「キールは相変わらず、黒い子犬が好きね」


バスケットに入っているのは、本物そっくりに作られたぬいぐるみの子犬だ。



ヴォルコフ公爵家に割り当てられた部屋は一番広いし、数部屋ある。小姓の間もついている。部屋に入ると、事情のわからないルカが、早速文句を言い始めた。


「キール、さんとやら、なんですぐに女王の所へ行かないんだよ?」


「陛下は多分監禁され、城はイリーナの姉一味に乗っ取られているようだから、様子を探らなくてはいけない。いつもであれば、自由に城内を歩き回れるが、今は、どこにいくにも兵士がついて回っているのがその証拠だ」


「なんで、イリーナは自分の城に戻って来ないんだ?」


「お前が、彼女を追い込んだ為、城に戻れば処刑されるかもしれない」


「……その、イリーナから何か、聞いている?」


「あぁ、全て聞いている」


ルカは口の中でモゴモゴと、悪かったな、と謝りの言葉らしき事を口にした。だが、ルカのおかげで、イリーナは私のことを想い直してくれたのだから、感謝すべきかもしれない。あのまま、結婚していたら、私はずっと、イリーナにとってただの「兄様」で、いつかどこかで、イリーナは私ではない別の人に恋をしてしまっていたかもしれない。


「フェオドラ様を救ってくれれば、全て帳消しにしてやる。元はと言えば、お前がやった事だからな。お前にとって、母であるヘレナが大事であるように、イリーナにとって母親であるフェオドラ様はかけがえのない存在なんだ。イリーナはまだ陛下から教わらなければならない事がたくさんあるし、フェオドラ様はこの国の女王なのだから、本当ならお前は処刑されてもおかしくない」


ルカに対して嫌味の一つや二つは言いたかった。ルカに小姓部屋で薬の用意をさせている間に、仔狼になって城の様子を探る事にした。


城内の衛兵は使用人と同じで殆ど入れ替わっていると見て間違いない。バーベリは辺境を国境を治めているからか、訛っているものが多かった。中には隣国イスエラ訛りの者もいた。バーベリの背後にはイスエラがいるのかもしれない。


フェオドラ様の部屋へと走った。走っていると、不意に背後から掴まれた。殺気を感じなかった為、大袈裟にクンクンと鳴いてみせると、誰かが咎めた。


「離してやれ、キール様の犬だ」


「登城なさっているのか?」


「そうだ。大丈夫、キール様の連れてくる犬は、城の中を走り回りはするが悪さをしない」


「そうか。それより、一体、どうなっているんだ? 女王陛下は姿を見せないし……」


残っている家臣たちは疑心暗鬼になっている。バーベリ公爵は、まだクーデターを起こしていない。それは、他の貴族たちに連絡を取った父が確認している。だが、いつクーデターを起こすかわからなかった。


フェオドラ様の部屋へこっそり入る。人になって、あちこち探したが、フェオドラ様はどこにもいなかった。残っている匂いも弱く、随分前のものだった。あちこち、探してみたが、夕食の時間までに見つからなかった為、一旦部屋に戻った。生きていると感じるのに、姿が見えない事に不安を覚えた。

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