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<イリーナ>

次の門番は半月後に決まった。アラムという無口な若者だ。無口なアラムは時々、独り言を言う癖があった。

「掃除も昼間のうちに済ませれば、いいって。夜に決して、地下牢に近づいてはいけないんだ……魔物がいるって噂があるけど、昼間であれば、大丈夫だって。それ以外は、ここの仕事は単調だし、重労働でもない。楽な仕事だ。五年頑張って、ここでの仕事を口外しなければ、一生困らない程度の土地と年金がもらえるって」

アラムは自分に言い聞かせて、ここでの仕事をしてるようだった。門番も私と同じで、地下から外に出る事は禁止されている様だった。人と会えないと言う事は、アラムのように無口な人にとっても、辛い事だったのかもしれない。


私は兄様の言いつけを守り、掃除をする部屋は鍵を開け、自分がいる部屋にはきちんと中から鍵をかけていた。


半年も経った頃、うっかり鍵を閉め忘れてしまった。アラムに落ち度はない。アラムは日が落ちる前に掃除を終わらせていたのだから。

鍵を閉め忘れた事に気づいたが、遅かった。アラムが部屋の扉を、恐る恐る開けたのだ。アラムが驚いた顔で辺りを見回した。私の他には誰もいない。アラムの口が歪んだ。


「ここには魔物がいるって聞いたけど、ずいぶん綺麗な魔物だな。地下牢にいるって事は、お前は、犯罪者か?」


一歩一歩、恐る恐ると言った調子でアラムが近づいて来た。


「犯罪者なら、罰が必要なんじゃないか?」


アラムは舌なめずりをしている。


「近寄らないで。もうじき日が落ちる。早くこの部屋から出なさい」


そう言った私の声は、みっともなく震えてしまった。


「ここには人が来ない」


「いいえ、近衛隊長が来る」


「それは一週間に二〜三度で、昨日だった。だから今日は誰も来ない。隊長さんはあんたの所に、こっそり通っていたんだな。あんたは犯罪者ではなく、地下にこっそり囲われているのかな? こんな別嬪さんが地下にいるなんて、誰も気が付かないしな。そう言うことだったんだな」


アラムは一人合点し、舐め回すような視線を向けてきた。ゾッとした。アラムの言う通り、今日は兄様は来ない。いつもは日が落ちる事が嫌でたまらなかったが、今日ばかりは早く日が落ちてほしいと祈った。アラムは私が怖がっている事を楽しんでいた。だから、ゆっくりと近づいて来た。時間はたっぶりあると思っているのだろう。ならば時間を稼がなければ。


「隊長は、私と話をするために来ていただけです」


本当の事だ。兄様は私を元気づけに来てくれていた。兄様とは三日以上会わないことがなかった。


「どんな話なんだか……」


「私はある貴族の娘。夜になると魔物になってしまう為、自らここに入っています。だから、外からではなく、中から鍵をかけているのです。今なら、まだ間に合います。何も見なかった事にして、怪我をする前に今すぐこの部屋から立ち去りなさい」


アラムが一歩近づく。私は一歩下がった。アラムがまた、一歩近づく。下がった踵に壁が当たった。もう、これ以上後ろへは下がれない。


だんだん恐れが退いていくのが分かった。身体中に力が溢れて来る。夜が来る。もうじきだ。後少し。

蹲った私を見て、アラムの足が止まった。怖がっているのだと思ったのだろう。

背中が熱くなる。身体の中からマグマのように煮えたぎった何かが、吹き出してきた。


朝になり、気づくと足元に骨だけが落ちていた。


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