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<キール>

 弟のアキムが近衛隊を引き連れて、森の中に迎えに来た。デルベルグ城から最短でいかれる国境付近に来る様、伝えておいたからだ。正確に言えば、アキムの居る所へ鼻を利かせて、会いにいったと言うのが正しいかもしれない。


「イリーナ姫、お迎えにあがりました。兄さん、お帰りなさい。姫のツアーモック城ではなく、私共のヴォルカ城に参りましょう」


「お迎え、ご苦労でした。私を信じて迎えに来てくれて、有難う」


イリーナは、アキムと近衛隊に向かって柔らかく微笑んだ。近衛隊から感極まったいくつもの「お帰りなさいませ!」との声が上がった。


「兄さん、姫は相当お疲れのようだけど? もしかして、休みを取らずに馬を走らせたりしなかったよね?」


「仮眠を3時間ばかり取ったが?」


「姫は、頑強な兵士じゃないんだよ……」


 アキムに言われ振り返ると、イリーナはホッとしたのか、今にも倒れそうな青い顔をしていた。急いでイリーナの馬の後ろに乗って、手綱を受け取る。胸に顔を寄せてきたと思ったら、うとうとしている。

貝殻のような耳に口を寄せて謝ると、微かに笑って、そのまま寝入ってしまった。イリーナが馬から落ちないように、片手で抱きかかえ、片手で手綱を取る。


「兄さんのデレデレした顔、久しぶりに見たな。相変わらず、仲が良いね。安心したよ。これを見れば、ルカと姫が手を取り合って逃亡なんて、誰も信じないね」


アキムが軽口を叩いた。


「逃亡じゃない……イリーナは脅されて、攫われたんだ」


「隊長、顔が別人ですね」「羨ましい」


 イリーナが眠ってしまっている為、近衛隊からの遠慮のない、にやにやした視線に晒され辟易した。


「何を言っているんだ。アキムの顔と近衛隊を見て、気が緩んだんだよ。これでやっと、安心してゆっくり眠れる」


「僕も無事に兄さんに会えてほっとしたよ。ところで兄さん、姫には別の部屋を用意するの?」


「もちろん、別の部屋に決まっている」


イリーナが不意に目を覚まし、寝ぼけ顔で不思議そうに見上げて聞いた。


「いつも一緒なのに?」


近衛隊から、唸り声や、咳払い、ホォー、ふーん、と言うわざとらしい声が上がった。半ばやけくそになって言ってやった。


「毎晩一緒だからな」



 暫く行くと、争う音と、馬の激しいいななきが聞こえた為、眠っていたイリーナも目を覚ました。


「どうしたの?」


隊の一人が様子を見に行き、すぐに戻ってきて報告した。


「この先で、商人たちの馬車が野盗に襲われています。姫がいるので、大事を取って避けた方が良いかと」


イリーナが首を振った。


「すぐに助けに行ってください。我が国へと品物を運んでくれる人たちです」


「承知いたしました!」


数人が駆け出して行った。


「相手の人数は?」


「十名ほどかと」


今こちらにいる人数も、同じくらいだ。


「私たちも行こう。イリーナ、自分で馬に乗れるね?」


「大丈夫よ。私はここに隠れているから、みんなで助けに行ってください」


隊員たちが駆け出して行く。


「キール!」


イリーナは怖さからではなく、私の身を案じて呼び止めようとした。


「大丈夫だよ」


微笑んで見せ、自分が乗っていた馬に乗り換え、馬車の方へと駆けつけた。思ったよりも近くで商人たちの荷馬車が襲われている。



 最初に駆け出して行った隊の者たちが、野盗と商人たちの間に入り込んだ。


「どこの国の隊だ?」


野盗の頭領らしき男が声を上げた。


「オルロフの近衛隊だ。我が国に運ぶ荷の略奪を試みようとするとはいい度胸だ。今すぐ、剣をひけ! 今後この辺りで悪さをしなければ見逃してやる」


「オルロフの近衛隊!?」


「なんでこんな所に!」


野盗たちが青ざめた顔で、頭領の顔を仰ぎ見ている。


「さぁ、どうする? こちらは一戦交えても構わないが」


混乱した様な頭領の目がイリーナの姿を捉えた。一瞬にして、頭領は彼女を押さえる事ができれば事態を好転させると気づいたようだ。頭領がイリーナの方へ頭を振った。不味い。


 頭領とその仲間が一斉にイリーナの方へ殺到する。私は丸腰になるのも構わず、必死で頭領に向かって剣を投げつけた。


私の投げた剣は、頭領の背中から心臓を貫いた。残りの野盗は九人。防ぎきれない。数本の槍と剣がイリーナの腕と脚を狙って繰り出された。

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