<キール>
イリーナは私が側にいれば、安心すると言う。ルカが現れる前までなら、それで良かったのかも知れない。でも、もしまだイリーナの気持ちがルカにあったとしたら……。本人に気持ちを確かめてみたかった。
本当はこのまま、攫ってでもイリーナを連れて帰りたかった。けれど、攫って連れ戻したとしても、イリーナの心が自分に無ければ、近くにいればいるほど虚しくなるだけだろう。それならいっそ、イリーナが望み、幸せになるのであれば、と断腸の思いで口にした言葉だった。例えそれが、人としての自分の寿命を縮めることであったとしても。
弟には、イリーナが帰国しない時には、他国に利用されないように、と暗に始末した方が良いと、言われた。そんなことはしたくなかった。
イリーナは私の真剣な問いかけに、笑い出した。
「なんでそんなことを言うの? 私の帰るところは、オルロフ国。隣に兄様がいなくては」
ホッとして座り込んでしまった。
「良かった……」
座り込んでばかりもいられない状況だと思い出し、起き上がって、ぶるぶるっと体を震わせてから人に戻る。しかし、よく考えてみればイリーナは、私を選んだわけではない。カラナスへ行くのと、帰国することの二択で帰国を選んだに過ぎない。今はそれで良かった。
「そうとなれば急いで、国境を目指そう」
「キール、昨日の血は誰の……」
「それは後で……とにかく急ごう」
「何があったのか、話して」
「今は、オルロフ国に入るのが先。わがままを言わずに……」
珍しく食い下がってくる。
「『自分で考えて行動するように』、と言ったのはキールなのに、行動したら、『大人しくしていて』と言うし、聞けば隠すなんて。私は何も出来ない子供で、お荷物なの?」
戸惑ってしまった。いつもなら、泣き出してしまうかも知れなかったのに、今日は違った。
「お荷物なんて思っていない。色々な事から、守りたかっただけなんだよ」
「でも、私は次期女王。守られてばかりではいけないでしょ? 私が国を守るんでしょ? ならばまず、知らなくては」
「いつも泣いてばかりのお姫様は、だいぶ成長したんだね」
「はぐらかさないで!」
答えない事には、一歩も進まなさそうだったから、答える事にした。
「トロフィムを殺してきた」




