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<イリーナ>

指輪を取り上げられ、地下室の扉を閉められるとすぐに、背中が熱くなってきた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


急に地下室に閉じ込められた下男が途方に暮れている。全く大丈夫ではなかった。先ほどまで感じなかった、食欲をそそる匂いが下男からする。人としての意識が薄らいでいく。このままではいけない。


下男の持っている灯を叩き落とす。下男は急に暗くなってしまった為、何も見えないようだったが、私にははっきり見える。階段途中の下男を突き飛ばした。下男は気を失ったようだが、死んではいないようでホッとした。下男に触れたが最後、どうなるか分かっていたから、手を差し伸べてくれようとした下男を突き飛ばすしかなかった。それに、触れられたらすぐに人ではない事がわかってしまう。


そろそろ、人としての意識を保っているのは限界だった。もう、二度と人を襲わない、と決めた。これでも、訓練の成果で、指輪なしで、少しの間正気を保っている事が出来ている。けれど、姿はとっくに魔物になっていた。


指輪もなく、キールもいないまま、このまま一緒に閉じ込められていれば、必ず下男を食い殺してしまう。もう、あんな思いは嫌だった。口の中に残る血と脂の味と匂い……。口をすすいでも、体を清めても数日間は匂いは抜けない。死ななくて良い人を殺してしまった罪悪感に、心も体も苛まれ続ける。ここから早く出なければと焦った。


後ろから、どうしようも無い抑えがたい、魅惑的な香りがする。お腹が無性にすいてきた。息を止めて、匂いを嗅がないようにするのも、そろそろ限界だった。


扉は外から鍵をかけられているようで、押してみても簡単には開きそうも無かった。だんだん、意識が下に倒れている下男の香ばしい匂いに傾きつつあった。

我慢できずに下に首を巡らした時に、首から下がっている小さな袋に気がついた。効果があればいいけれど、と言って渡された袋にはキールの髪の毛が入っていた。ほんの少し、意識が戻る。


 意識が少し戻っている間に、外に出なければ。


その期を逃さず、二度扉に体当たりした。

それでも、だんだん、何故外に出たかったのか、わからなくなり、御馳走の方に引き返してしまいたくなってきた。

食べてくれと言わんばかりの、香ばしい香り。外に出るのは、御馳走を平らげてからにしようと思ったが、なぜかわからないけれど、ただもう一度だけ、あの扉にぶつからなければならない気がした。その後で、ゆっくりと御馳走を味わえばいい……。


体当たりすると、扉が吹っ飛んだ。


 少し離れたところに立っているルカが目に入った。指輪に近づいたおかげで、人としての意識が戻ってきた。だから、逃げようとするルカを殺さない様に鉤爪ではなく、肘で頭を殴り、指輪を取り戻した。


その後、ルカを抱えて地下室の扉をでた所に横たえた。下男は地下室でワインの瓶を抱えて眠り込んでいるところを発見されるはずだ。

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