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<イリーナ>

 私は驚きすぎて、危うくキールを落としてしまう所だった。なんの為に、ここまで来たの……。ラドミラのいく先を聞いているルカの声が、遠くにいる様に聞こえる。キールに頬を舐められて、我に返った。


 ヘレナによると、第二王女のニコラがデルベルク城にきていると聞いて、ラドミラは王の城に行ったようだ。ルカが、情けなさそうに謝ってきた。


「イリーナ、ごめんね。母さんの所が一番安全だと思っていたんだ……」


「……ラドミラ王女はニコラ王女に会いに行ったのね……仲が良いのね」


私はお姉様のことを考えた。仲が良いと思っていたのは自分だけで、お姉様はそう思っていなかったのかもしれない。


「ニコラが王におねだりしに行ったのを見て、慌てて自分も、と行ったのだと思うけど」


 やっと帰国できると思っていたのに、これから更にデルベルク城に入り込み、石を取り返してこなければならないことを考えるとショックのあまり、部屋に閉じこもった。ルカには、当分一人にしておいてほしいと頼んだ。エメラルドのことを、キールと相談しなければ。



 キールが自分が行って取り戻して来ようと申し出てくれたけれど、それは一番避けたい事だった。ラドミラは気に入った男性を飽きるまで手放さないと聞いている為、キールが戻ってこられなくなるのでは無いかと心配になった。


 ラドミラがキールに寄り添っていただけでも、心の奥に真っ黒な感情が湧き上がってしまったのに、キールがそのラドミラの元へ一人で石を取りに行くと考えただけで、魔物になってしまいそうだった。


「私も一緒に行く!」


「心配しなくても大丈夫だよ。二〜三日もあれば行って帰って来れる。すぐに戻ってくるよ」


「もう、私を置いていどこにも行かないで。もう離れないで……」


声が震えてしまった。


「離れたくないのは、私の方だよ」


息も出来ないくらい抱きしめられた。熱い指先で唇の形を確かめるようにゆっくりとなぞられた後、深く口付けされ、唇も身体の奥も熱くなり、溶けてしまい、気が遠くなった。


いつの間にか、開いた扉から手燭の灯が、真っ暗な部屋の入り口を照らしている。入り口にはルカが立っていた。ルカには部屋の奥にいる私たちは見えない。


「イリーナ? 他に誰か、いるの?」


どさっと、仔狼に戻ったキールが上に落ちてきた。


「犬と、遊んでいたの。うるさかった?」


息が切れない様に、ゆっくり答えた。


「人の声がしたような気がしたから……」


「キールとお話ししていたの。今は話す気分じゃないから、一人にしておいて」


「指輪のこと……ごめん……」



 ルカが扉を閉めると、窓の外には雷が光り始めた。雷鳴がだんだん近づいてくる。寝台から立ち上がったキールの影が、一瞬くっきりと雷で浮かび上がった。見る間に外は窓を叩き割る様な土砂降りになっている。


「石を取りに行く前に、少し訓練しておこう。帰国する前に、少しでも力をコントロールできる様にしておきたいからね。小さくなることも出来ると聞いている」


「え? 今から? やっぱりキールは鬼隊長なのね……」


「鬼で結構。イリーナの為であれば鬼にでも悪魔にでもなる」


 ルカが声をかけるまでは、キールは優しかったのに、なぜ不意に厳しくなるのかわからなかった。嫌なことばかり続いて、疲れてしまっていた。だから、あのまま、もふもふでなくても良いからキールに抱きしめられたまま、眠ってしまいたかった。


「イリーナ、訓練をしないと、再び人を襲ってしまう事になる。フェオドラ様はイリーナを次期女王にと定めている。女王の役割は、座って耳に心地よい命令を出しているだけでは無いのは知っているね? 嫌なことも伝えなくてはならないし、時にそれは残酷な命令であったりする。一刻も早く決断しなくてはならない問題もあるから、疲れているから、やりたく無いからと、後回しにしたり、放っておくことは出来ない。決断して、命令を出すのはイリーナなのだから。だから、いつまでも甘えていてはいけない」


「……だって、キールは私と結婚して王配になるんでしょう? だったら、手伝ってくれるんでしょう?」


 両肘をついてベッドからキールを見上げた。キールは唸った。


「もちろん、助言をしたり、手伝うのは当然の事。でも、最終的に、イリーナの名前で命令が下されることの方が多い、と言う事を忘れないでほしい。イリーナの名前で出された命令は、誰かに言われたからと言ったって、誰かのせいにはならない。イリーナの責任になるのだから。私がいない時でも、しっかり自分で考えて、行動出来るようになってほしい」


「お母様が亡くなってしまっていたら、どうすればいいの?! 私たちは国に帰れるの? ……それとも、このまま、二人で別の場所で……」


キールは首を振った。


「オルロフ国は魔物が守っているおかげで、他の魔が入って来ない。人狼はその魔物を守るのが役目。もし、魔物が国から出ていけば、他の魔につけいられて国は滅びてしまうだろう。だから、万が一フェオドラ様がお亡くなりになっていたとしても、イリーナは帰国しなければならないんだよ」


「やっぱり私は、自由に生きていくことは出来ないの? このまま、どこか別の場所に行く事は出来ないの?」


「人はみんな完全に自由ではいられないよ。もし私たちが他の国に住んだとしよう。魔物であると、知られてしまえば、八つ裂きにされてしまうか、火炙りにされてしまうよ。一度、人の住む国から追われてしまえば、私たちは人として人の間で暮らしていくことが出来なくなる。ずっと、追われる事に怯え、逃げ続ける事になってしまう」


「私が国にいれば、魔が国には入ってこないの? どうして?」


「それは、王立図書館の奥の間にある本に書いてあるので、また今度。今日は、私が触れていても姿を変えられる様に練習しよう」


「何故?」


「万が一、私の意識がない時に、一緒に拘束された場合を考えて」


キールは簡単に言ったが、それは簡単なことではない。羽くらいは出せるが、魔物になろうと吹き上がってくるマグマの様なエネルギーは、キールに触れられることにより鎮火してしまう。

キールに指先で触れられると、その指がさっき唇をなぞった事を意識してしまい、さらに口付けの感触が甦ってしまって、どうしていいのかわからなくなってしまった。キールが気づき、赤くなりながら狼になり後ろを向いた。


「尻尾で足に触れるから、気を散らさない様に」

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