<キール>
仔狼の姿で一緒に部屋へ入った。せっかく再会出来たのだから、人型のまま彼女の隣で眠りたい所だったが、上目遣いで「もふもふ」をお願いされ、やむなくもふもふで添い寝をした。
「やっと兄様のもふもふで眠れる……世界で一番安心できるの。兄様、大好き!」
大きな溜息をつきながら答えた。
「はいはい、兄様も、イリーナが大好きだよ」
ラドミラの「ライカ」と呼ぶ声が聞こえた。
耳をすましていると、あちこちの扉が開け閉めされる音がした。ヘレナがこれ以上騒がれるのを嫌ったのか、湖の外に出て行ったようですと、嘘を伝えている様子が聞こえてきた。ラドミラのヒステリックな声が聞こえた。
「私から、逃げたって言いたいの!?」
「王女殿下、違います。伺ってみれば、何処の馬の骨かわからない人物だったそうではないですか。王女殿下がご無事で良かったですわ」
「どういう事よ?」
「最近、この辺りで野盗が出没して、乱暴を働いて困っているという噂があるのです。その一味だったかもしれません。衛兵に今夜はしっかり見回ってもらうように伝えます」
それを聞いたラドミラは黙った。私は野盗よりはマナーがいいと思うのだが、気が付かれなかったのは少し残念だった。
「兄様が乱暴な野盗だなんて。こんなに優しいのに……記憶がなかったとはいえ、ラドミラにも優しくしたの? もしかして、もふもふでこういう風に添い寝をしたの?」
イリーナはそう言うと、抱きついてきた。なんと答えたら良いかわからず、眠ったふりをした。
夜明け前の暗いうちに、イリーナが翼を広げ仔犬になった私を抱き上げ、湖の岸に置き、自分の部屋へ戻った。翌朝一番で、衛兵の間を一声上げ、衛兵の目を引いてから、彼らの間を目立つようにすり抜け、一本道を居館へ向かって走った。居館の入り口で、イリーナが両手を広げて待っていた。私を見つけたルカががっかりしたのは言うまでも無い。
ラドミラは、朝食後には居館を去った。
「ルカ、石はどこにあるの? 私は石を返してもらいに来たのに」
イリーナの膝の上に頭を乗せて、うとうと夢見心地で微睡んでいた。ここは天国に違いない。
それを見て、ルカは溜息をついて席を立った。私を抱えて、イリーナはルカについて行く。ルカはヘレナの部屋の戸をノックした。
「どうしたの、ルカ?」
「母さん、エメラルドの石を入れたガラスの箱を預けておいたよね?」
「ルカ、ごめんなさい。あれは、ラドミラ様に見つかって取り上げられてしまったの」
一難去って、また一難……。




