<イリーナ>
ルカはいつも答えを強要する。答えはそれしかないと言われると、一瞬、そうなのかと思ってしまう。時間をかけて考えれば、答えは他にもあるはずなのに、ルカはいつも答えが一つしかない様な言い方をする。私に考える時間を与えない様にする為なの?
石が二つ無ければ、国に戻っても地下からは出られない。キールなら、匂いを辿って私を見つけてくれるはず。私は、よろめいたり、疲れて寄りかかるふりをして、あちこちに自分の匂いを擦り付けた。
まさか、キールが追ってくる事ができないなんて、思っても見なかった。
馬を手に入れたルカは私を前に乗せ、カラナス居館へ向かうと言った。馬で一日の距離のようだ。そこに、ルカの母親が幽閉されていると言う。カラナス居館に、ルカの母ヘレナは囲われている為、居館から外に出る事は許されていないが、湖の島の中での自由と居館の主人としての生活は保障されているのだという。
ルカが言うには、ゲストルクの王は女好きは有名で、美しい皇后がいるにも関わらず、カラナス居館のような場所をいくつか作り、気に入った女性を囲って、領地を見回ると称してあちこちに囲っている女性を訪ねているのだ。
カラナス居館はカラナス湖の中程にある島に建っている。岸から島までの道は一本道で、この道を通らなければ、島への出入りはできない。島に渡る岸側の入り口に衛兵詰所があり、衛兵が出入りする人間を厳しく調べる。ルカから、顔と髪に泥を塗る様にと言われた。
「イリーナは目立ちすぎるから、うっかり衛兵の口から王にイリーナのことが伝わって、気に入られてしまうと、母さんと同じ目に会ってしまうから」
ルカはそう言うと、私の髪に元の色がわからなくなるほど、泥をべったりとつけた。泥だらけになるのなど、嫌だったけれど、石を取り戻すにはカラナス居館に入らなくてはならないから、仕方がない。
ルカが衛兵に声をかけると、衛兵たちからずいぶん長い間いなかったな、旅の途中で死んだのかと思った、と揶揄われていた。
ルカは母親のヘレナと違って出入り自由らしい。衛兵は私に、フードを取るように言った。ルカが言い訳する様に衛兵に言った。
「僕の彼女なんだ。母さんに会わせようと連れてきたんだけど、途中で泥沼に落ちてしまって、大変だったんだ……だから、早く湯浴みをさせてあげたくて……」
衛兵は泥だらけの私を見て腹を抱えて笑った。
「そりゃ、気の毒だったな。早く風呂に入った方がいいな」
泥を跳ね飛ばして、衛兵にくっつけてあげようかと思ったけれど、こんなところで入れなくなってしまっても仕方がないので、黙っていた。キールがこの一本道を衛兵の間をすり抜けてくる事ができるのか、心配になった。




