表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/133

<ルカ>

はぐれない様にイリーナの手を引いて歩いた。触れたイリーナの手は思っていたよりもすべすべして、柔らかく、いつまでも握っていたくなった。明るく、騒々しい市場の中でしっかりと繋ないだ滑らかな手の持ち主が、魔物なんかであるはずがない。フードの下に隠れてはいるが、日を受ければ輝く銀の髪と澄み切った菫色の瞳のイリーナは、どう見ても妖精だ。


時間が経つに連れ、イリーナを魔物だと思ったことは、ただの夢の中で起こった出来事の様な気がしてきた。フリードマンは今も、きっと何処かで僕たちを探しているだろう。


(この先も、ずっとイリーナと一緒にいたい)


握る手に力を込めたが、イリーナはあちこち覗くのに忙しくて、気がついていない様だった。市場の無造作に積んである野菜や、色とりどりの花々、生きたままの牛や鶏や羊、揚げたての香ばしい香りのする食べ物、宝飾品、服。彼女の見つめる先にある物よりも、彼女を見つめ続けていたけれど、全く気づいていない様だった。


「特別に欲しいものは無いけれど、沢山並んで誰かに買われるのを待っている商品たちを見ていると、なんだか浮き浮きしてくるわね」


「どんな素敵な商品よりも、イリーナの方が素敵だよ」


「ルカは、何でも褒めようとするのね」


欲しい物があれば言って、と伝えたが、イリーナは見ているだけで楽しいらしい。見ているだけで楽しい、と言うイリーナの気持ちが分からなかった。わからなかったが、彼女が喜んでくれるのであれば、イリーナが目に留めた物は全て買ってあげたいと思った。


自分がしてあげたことで彼女の喜びが大きくなるのであれば、しないでいる事なんて不可能だ。そうは思っても、残念ながら僕が買うことの出来るものは、そんなに多くはない。


イリーナのもう片方のエメラルドを売れば、相当なお金になるに違いない。けれど、あれは彼女のものだ。


「向こうから、良い匂いがする!」


イリーナの指した焼き菓子を買って手渡した。甘くて、干した果物が詰まっている焼き菓子だ。「有難う」と言って笑顔になった彼女。嬉しくて、今、彼女を笑顔にさせたのこの僕だと、大声で叫びたくなった。


「食べながら歩くなんて見つかったら、お母様に怒られそう」


イリーナは言った瞬間、その母を暗殺しようとしたのが僕だと思い出したらしい。


「ルカ、何故、お母様を? 前に言っていたけれど、ボリスと何か関係があるの? もしかして、お母様がボリスを殺すよう命じたと思っていたの?」


「他に父さんを殺そうとする人なんていないじゃないか……」


フェオドラ暗殺をトロフィム王に依頼された事は言えなかった。


「お父さんを殺されたと思ったから、お母様を殺そうと思ったのね……。でも、それは間違いだわ。ルカとボリスが城を去った後、暫くしてから追手の兵士が戻ってきてお母様に『逃げられました』と報告していたのを覚えているもの。だから、ルカのお父さんを殺したのは、我が国の兵士ではないわ」


じゃあ、父さんを殺したのは一体誰で、なんの為に殺したんだ? イリーナの言う事が正しいとすれば、僕はなんと言うことをしてしまったのだろう。いくらトロフィム王に依頼されたとはいえ、勘違いでイリーナのお母さんを暗殺してしまうなんて……。違うとわかっていたら、フェオドラ暗殺を引き受けることはなかったのに……。トロフィムは僕の復讐心を利用したのだ。


僕の使った毒で死なないはずはない。だが、イリーナは自分の母が死んだとは思っていない様だった。目の前で、見ていないせいかもしれない。イリーナが望むなら、石を返した後、フェオドラがまだ生きていればだけれど、罪滅ぼしに治療をしに行こう。


 空を見上げると、太陽が頭上に射しかかり、市場の屋台が混み始めた。


「イリーナ、このまま僕と一緒に行こう。このままだと、トロフィム王のところへ連れて行かれてしまう」


「石は?」


「デルベルグ城には無い。だから、一緒に石が隠してある場所へ行こう」


「キールを呼んでこなくては……」


僕は賭けに出ることにした。


「拾った犬なんて、どうでもいいじゃないか。それに、宿屋へ戻ったら外には出られない。そのまま明日にはデルベルグ城に連れて行かれてしまうよ。石を取り戻したいのなら、今すぐ、僕と一緒に行くしかないよ。犬を連れに宿屋に戻るなら、残念ながらここでお別れだね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ