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<イリーナ>

 その夜は、建物が見つからず、岩山を背にして野宿をする事になった。ここは城周辺とは違い山奥なので狼や熊も出るんだと、グスターフが言っていた。


焚き火を焚いて、その周りで眠る。私は焚き火から見えない屏風の様になっている岩の後ろで眠る事にした。そこであれば、三人から見えない為、キールに添い寝をしてもらえる。そこは焚き火の光が屏風岩で遮られ、背後にも岩山が聳えているため、闇が蟠っている。


「こんなに真っ暗な所で一人で眠るなんて、怖くないの?」


ルカが聞いてきた。「怖いから隣に来て」と言われてしまうのを恐れている様な聞き方だった。昨日ことが悪夢でないとすれば、暗闇で側にいれば、フリードマンのように襲われてしまうかもしれないと思っているのだろう。

一人でいたいから、と答えると、ルカはほっとして皮肉を口にした。


「イリーナには怖いものなんて、ないのかもしれないね」


「人の方が怖いから」


思わず答えてしまった。ルカは何も言わなかった。フリードマンに肩を掴まれた時に、感じた恐怖。ルカの眼差しの変化も怖かった。

他の二人には、一人になりたいことと、何かあったら犬が起こしてくれるから、と伝えて屏風岩の裏へ入った。



少し覗いたくらいでは暗くて、闇色の毛のキールが元の大きさの狼になって横になっていても、見える心配はない。


「イリーナ、今は仕方がないけれど、城に帰ったらこういう事は、結婚するまでしないからね。君はもう子供じゃないんだから」


キールから溜息と共に言い渡された。


「何で結婚するまで? 子供ではないから結婚したらしない、ではなくて?」


前足の間に潜り込むと、大きな狼に戻ったキールは、黙って頬に湿った鼻を押し付け、やけに熱い溜息が頬にかかった。



夜中に、遠くの方から狼か野犬の遠吠えが聞こえて、目を覚ました。キールがゆっくりと身を起こした。


「ここにいれば大丈夫だから、この岩山の前から動かないで」


キールは耳をピンと立てて辺りを伺っている。焚き火の方から、声が聞こえた。


「お姫さん、どうやら焚き火の周りを野犬が囲んでいる様だから、念の為、焚き火の方へ戻っておいで」


キールに後ろから押され、焚き火の方へ戻った。一瞬、ルカが手を差し伸べかけたが、昨日のことを思い出したのか、グスターフの目を気にしてか、腕を引っ込めた。


焚き火を遠巻きにして、向こう側の暗闇にたくさんの目が光っていた。アーダムが焚き火から松明を作る準備をし、三人とも片手に剣を握っている。


一頭が、一番小さいから襲いやすいと見たのか、私の方へ突進して来た。アーダムが剣で払ってくれた。輪が縮まって来ている。唸り声が焚き火のすぐ近くから聞こえてきた。


「キール……?」


呼びかけに対する応えは無かった。キールがすぐに飛んできて、側にいてくれると思ったが、キールは返事もしないし、出てもこない。


背後の岩山の上から、狼の遠吠えが聞こえた。アーダムが振り返った。


「で、でけぇ! あれが降りてきたら、俺たちは前の野犬と挟み撃ちにされちまう……」


三人がごくりと唾を飲む音が聞こえた。


狼が岩山から飛び降りて、私たちの前に背を向けて着地した。ルカがその狼を後ろから斬りつけようと、剣を振りかざした。


「やめて!」


私は思わず叫んで、ルカの腕を握った。その声と同時に、狼は野犬の群れの中へ飛び込んでいった。


焚き火の向こう側で、唸り声が聞こえてきた。そのうち、野犬が一匹、宙を飛んで目の前に落ちた。グスターフが剣でとどめを刺そうとした時には、喉を食いちぎられ事切れているのがわかった。何かが叩きつけられる音や、断末魔の悲鳴が次々と聞こえてくる。私はスカートの裾を握りしめ、歯を食いしばった。


「イリーナ、怖いんだね。大丈夫。僕たちがついているよ」


そう言ったルカの語尾が少し震えている。心の中で、違う、と叫んだが、声には出さなかった。あの狼はキールだ。もし、こんなところでキールに何かあったら、そう思うといてもたってもいられなかった。大丈夫、兄様は強い、何度も自分に言い聞かせた。三人も身動きひとつせず、あたりを緊張して伺っている。グシャっという音や、骨を砕く音が聞こえてくる。


気がつくと、辺りは気味が悪いくらい静かになっていた。こちらを伺う光る目も無くなった。


「どうやら、狼と野犬が縄張りを争ったんだな。助かったな」


グスターフが呟いた。ルカとアーダムは緊張の糸が切れたのかパタリと横になった。

屏風岩の後ろを覗いた。もちろん、野犬の群れに飛び込んで行ったのだから、そこにキールはいない。



キールが戻って来た時に、すぐにわかるように、私も焚き火の近くで横になった。眠れなかった。キールが無事だと確認できるまで、安心出来なかった。

焚き火番のアーダムがうつらうつらしている。起こそうか迷っていると、小さな影が焚き火を横切った。あたりはまだ暗闇に包まれている。


「キール!」


アーダムが、ハッとした様に顔を上げた。しかし、また船を漕ぎ始めた。よろよろ歩いて目の前に来たキールを抱き上げ、怪我が無いか確認した。血塗れだった。


「数が多すぎた……」


キールはそう言うと、うつ伏せのまま目を閉じた。

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