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<キール>

 犬笛の音を頼りにアキムをを探した。もちろん、途中で普通の大きさに戻る。馬に乗ったアキムをなんなく見つけることが出来た。アキムもアキムの馬も、狼姿の私を見慣れているせいか驚かない。


「兄さん! イリーナ姫は?」


アキムによれば、近衛隊は無事に侍医に薬を渡したが、その後、どうなったのかはわからないのだと言う。


「どう言うことだ?」


「誰も、登城できないんだよ」


 ツアーモック城の中には、ヴォルコフ一族はもとより、近衛隊も他の貴族も一切入れないのだと言う。通常であれば、訴状や相談や時には舞踏会や観劇と何かしら、貴族たちが登城し、女王に謁見する機会がある。それが全くできない上に、登城もできないとは、異常事態だ。何とか城の中にいる人と接触出来ても、緘口令を敷かれているのか、何も語らないと言う。


「ソフィア姫が『イリーナ姫は陛下が決めた許嫁を裏切った。それだけでも国に対する背徳行為であるのに、その相手が陛下を暗殺しようとしたのを知っていながら、その犯人と手を取り合って逃げた』と吹聴しているんだよ」


「確かに、知らなければそう取られても仕方がないのか……」


「兄さんは、ソフィア姫に呼び出されている。でも、ショックで寝込んでいると言う事にして、ヴォルカ城から出られない、と言ってある。兄さんたちが早く戻ってこないと、他の貴族たちはソフィアの言葉を信じ始めてしまうよ。そうなると、イリーナ姫は陛下暗殺の一味として、見つかり次第処刑される事になるかもしれない。フェオドラ様がご無事であればそんな事にはならないけれど、生死もわからない。ドナートは姫がルカの仲間ではないことを証明できる唯一の証人だから、近衛隊ではなく、うちのヴォルカ城で匿う事にした」


「なんで、私がショックで寝込まなければならないんだ……」


「丈夫な兄さんが寝込むには、それらしい理由が必要でしょ?」


「……。ソフィアは元々、自分ではなく妹のイリーナが次期女王に指名されていることを不満に思っていたからな……でも、まさか、処刑までは……」


「女王であるフェオドラ様を暗殺しようとしたとなれば、犯人は処刑となるだろう」


「でも、ソフィアはそこまでするだろうか?」


「それは、これからわかるよ」


アキムが何か言いたそうにしている。


「何かあるのか?」


「……ソフィア姫が、『イリーナ姫はフェオドラ様を暗殺した犯人と一緒に、手を取り合って逃げた』と言ったのにはそれなりの理由がある」


「大方ルカが、イリーナの手を引いて連れて逃げたからだろう?」


アキムは何か言おうかどうか迷っている。


「アキム、イリーナを一人にしておくのは心配だから、そろそろ……」


「ルカとイリーナ姫は、キスをしていた、とソフィアが……」


「な……」


頭が真っ白になって、言葉を失った。


「兄さんなら、寝込むでしょ? あ、ごめん……。本当にショックだよね」


「……ドナートは見ていたのか?」


「彼は見ていなかった。見ていたのはソフィアだけだよ。ドナートが駆けつけた時には、ルカが姫を抱きしめ、姫が逃れようとしていたと」


「どうせ、ルカが無理矢理、したんだろう……」



なぜ、イリーナがルカと一緒に逃げたのか聞いていなかった。その表情に気づいたアキムが辛そうな表情で私の肩に手を置いた。


「いいかい、兄さん、たとえイリーナ姫がルカとか言う奴と恋に落ちようとも、彼女が生きている限り、彼女は我が国の次期女王と定められている。だから、出来るだけ、イリーナ様には穏便に戻って来てもらわねばならない。国に戻らないつもりであれば、他国にその力を利用されてしまう前に、封じるしかないんだよ。兄さんならわかるよね?」

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