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<キール>

近衛隊が薬と共に去って行くのを見送った後、イリーナとルカの後を追い始める。途中、川の浅瀬を渡ったのか匂いがふっつりと途絶えた。しかし、川を渡ったところで、すぐに匂いを見つけ出し、辿っていくと、開けた場所に出た。


 打ち捨てられた小さな村とも呼べないような、小屋のような小さな家が八〜十件ある集落があった。小狼になって、二人の匂いのする家に向かう。閉まっているを扉を前脚でカリカリと引っ掻いた。扉の中から、イリーナとルカ、それから別の人間の匂いがした。


「あ、こら、お姫さん、勝手に扉を開けてはいかん!」


ルカではない人間の声が聞こえた後、扉が開いた。


「に、……キール!」


イリーナに抱き上げられた。素早くイリーナを観察する。無事な様子を見てホッとした。無邪気な仔犬のフリをする為、イリーナの顔中を舐め回した。うっかり、唇も舐めてしまった。唇を舐めた瞬間、とろける様な甘みに思わず、人型に戻りそうになった。イリーナの頬は仄かに赤くなっている。


「イリーナ?」


部屋の中からルカが声を掛けてきた。


「仔犬が……私を追いかけて来たの」


イリーナは振り返らずに答えた。顔が赤いままだ。


「薬は近衛隊に届けた。隊は城に向かった」


犬らしく尻尾を振りながら、耳元で手短に囁いた。


イリーナは私を抱いたまま、部屋の中に戻る。小さくなってイリーナの腕に抱かれていると言うのは、何だか不思議な感じがした。もちろん、快か不快かと問われれば、快だ。部屋の中にはルカの他に三人の男がいた。ルカは三人から問い詰められていた。


「ルカ、お姫様を連れてどこに行こうとしていた?」


頭を剃った屈強そうな大男が、ルカを問い詰めている。


「僕は彼女と結婚するんだ。オルロフ国を出れば、彼女はお姫様じゃない」


ルカの言葉は聞き捨てならなかった。イリーナの顔を見ると、イリーナは目を背けた。


「は? このガキは何言ってるんだ? まずは王様に差し出して、人質にするなり、後宮に入れるなり、どうするか聞かなきゃ、だ。わかるよな?」


「僕は、きちんと仕事をした。彼女はその仕事のうちに入っていない。だから、王の所には連れて行かない」


ルカと三人の男たちは睨み合っている。


イリーナの無事を確かめて、ほっとしたのも束の間、状況は酷くなってきた様だ。もし、イリーナがゲストルク国の王の下に連れて行かれてしまえば、取り戻すには戦争になってしまう可能性がある。しかも、ゲストルクの王は女好きで有名だ。ルカの言葉は聞き捨てならないが、争うようなら、ルカに味方しよう。

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