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<ルカ>

 人が通らない頃を見計らって、街道を外れ、再び森の中へ戻った。 


「さっきの話は、違うところがあるけれど……。あんな話が出回っていては、イリーナはもう国に帰れないね。検問も通れないから、街道を避けて遠回りして山の中を通るしかない。もうこの国にいることは出来ないんだよ。僕と一緒に行くしかないんだ」


 イリーナはショックを受けている様で、先ほどから黙り込んでいる。せっかく城から連れ出してあげたのに、嬉しそうではなかった。

それどころか、だるそうに、少し行くごとに休憩したがった。イリーナはお姫様だし、ずっと地下にいたせいで、すぐに疲れてしまうのかもしれない。休憩のたびに、馬から降りて切り株の上に座ったり、大木に寄りかかっている。馬の乗り降りも、時間がかかる。悔しいけれど、あの婚約者みたいに、軽々とイリーナを抱き上げて馬に乗せられる程、身長もないし、力もない。


「イリーナ何処か具合でも悪いの?」


「ルカ、私はもう動きたくない」


イリーナが疲れて弱気になったのだと思ったから懸命に励ました。


「イリーナ、国境を越えれば自由になれるんだよ! だから、もう少し頑張ろう」


「お願いだから、私を置いて一人で行って」


「こんな所に置いて行かれたら、狼の餌食になってしまうよ。とにかく前に進まなきゃ」


「前に進んで、国境を超えたらどうするの?」


「イリーナ、石を約束通り返す。その後、僕と結婚しよう。二人で自由に暮らそう」


そう言って、イリーナを抱きしめた。しかし、イリーナは僕を突き放した。


「お母様を殺そうとした人と結婚? それに、私には兄様という婚約者がいるのよ?」


 一体イリーナはどう言うつもりで、僕と一緒に城を出たんだろう? 婚約者は仲の良い兄の様な存在だとは思うけれど、形だけではなかったのだろうか? だから、僕と一緒に来たのでは? でも、国を出てしまえば、婚約者も追ってくることは出来ないだろう。イリーナはもう僕のものだ。


「イリーナ、もう国に戻ることは出来ないんだよ。国境を越えれば全てから、自由になれるんだよ? 地下室からも、女王の命令からも、許婚からも。君の許婚は、僕と逃げた裏切り者の君を相手にするのかな? 許婚って、小さい頃から言われ続けたせいで、好きだと思い込んでいるだけじゃないのかな? 周りから許婚を好きになると思いこまされているだけなんじゃない?」


 イリーナは考え込んだ様に黙り込んだ。もう、僕と行く以外に道はないと気がついたのだろう。


「小さい頃から、許婚と言われ続けて、許婚を好きになるものだと思い込まされていただけだよ。自由になると言うことは、思い込みから自由になることだよ。国境を超えたら、全てから自由だよ。君は婚約者の事を本当に好きだったの?」

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