第六話
「父上、どうかなさいましたか? ルードも今日はどうしたんだ?」
今日の食事は、何かおかしい。 そう判断した、王太子が二人に尋ねた。
「……ルードよ、ワシから一つ頼みがあるんだが」
「父上、丁度僕もお願いがありまして」
「では、ワシから。 ルードよ、出来ればシュクルでパンの持ち帰りが出来ぬか聞いて欲しい。 出来るなら持って帰って来てくれ」
「わかりました。 聞いてみます。 父上、次は僕です。」
「うむ」
「シュクルで働かせて下さい」
「!!!」
「一週間の内の三日を通い、もしくは泊まりで「お主も気に入ったか」……はい」
王太子、王太子妃、王妃、王女の四人は、二人が何の話をしているのかサッパリ、わからなかった。
「あなた、何の話をしているの? シュクルとは何かしら」
「母上。 今日僕達が平民エリアへ散策に行ったのはご存知ですか?」
「ええ。 張り切って行くのを見ましたから」
「平民エリアと貴族エリアの境目辺りの裏通りに、新しいお店があったのです。」
「そこは飲食店で、名前を『カフェシュクル』と言います。 大通りの飲食店のような、賑わいを目的とした感じではなく、落ち着いた雰囲気のあるお店でした」
「メニューを見ても初めてのものが多くて迷いましたが、数分で運ばれた品は、今まで食べたことのない程美味しかったんです」
食堂にいた全員が、目の前の食事を見て考えを巡らせた。
『今まで食べたことのない程美味しかった』 ルードの言ったことが、食事が終わっても尚、頭に残っていた。
◇
「では、母上行ってまいります」
「私も行きます。 そのシュクルとやらに」
「あ、はい」
ルードは母親の食事に対する圧に耐えることが出来ず、一人で向かえなかった。
城を出るため王家の印が入った馬車に乗り込もうと見ると、何故か兄の王太子と王太子妃のフェーネさん、ロナリア姉さんが腰掛けていた。
「何してるんですか、ジェイダ兄上、フェーネさん、ロナリア姉さん」
「何、ルードがあれ程絶賛する店と食事が気になってな」
「私は付き添いです」
父を除く、王家の全員が馬車で平民エリアへ向かう。
恐らく前代未聞の出来事で、平民エリアを行き交う者達は、王家の馬車に驚愕していた。
やがて馬車は、平民エリアと貴族エリアの境目にある裏通りに入った。
そして、目的地である『カフェシュクル』の前で停止した。
◇
カラン
「いらっしゃいませ、廃れたような店シュクルへ。 二度目の来店ありがとうございます」
「メルナくーん、ちょっと来ようか」
「失礼します、マスターが呼んでいますので」
昨日と変わらず、仲の良いやり取りに微笑むルードは、席へ腰掛けた。
「これは…」
「平民エリアの飲食店のメニューはこんなにも多いのか?」
「いえ、兄上。 多分ここだけです」
「貴族エリアで出されるケーキとは、見た目が違いますね」
メニューと睨めっこすること三分。
「私はピザかしら」
「俺はオムライス」
「私はショートケーキで」
「私はサンドイッチよ」
王妃、王太子、王太子妃、王女が、注文しメルナが確認を取る。
「飲み物は全員、ディンブーで」
◇
一番下の息子ルードが、昨日見つけたと話す『カフェシュクル』。
夫で国王のルーカスも、城で長年料理人の食事を食べているのに、「気に入った」と話す。
一体シュクルという店は、どれ程の美味しさの料理を出すのか。 私が今食べている食事よりも、美味しいならその料理人を是非迎えたい。
今日、『カフェシュクル』に行くと言うルードに、つい「私も行く」と言ってしまった。
なるべく目立たない服装をしているけど、大丈夫かしら。
馬車に乗り込むと、朝から見かけなかった一番上の息子ジェイダと、フェーネさん、娘のロナリアが乗っていた。
目的は全員同じで、シュクルの品定めとわかってホッとした。 良かった私だけかと……
城を出て、貴族エリアを過ぎる。 普段は城から出ることなく過ごしているため、最近の国民の生活を把握出来ていないのは私の落ち度でもある。
馬車は平民エリアと貴族エリアの境目辺りの裏通りに入って行く。
裏通りは大通りと違い、暗く薄気味悪いイメージがある。 実際、馬車が通る道は建物の陰で光があまり当たっておらず、店に着くまで暗かった。
店に着き、店内へ足を踏み入れた時は安堵したものだ。 道中の張り詰めた雰囲気が、店内の柔らかな照明で溶けていくのが感じられた。
従業員とは思えない程美しいメイドが、城のメイドも羨む姿勢で対応する。 自虐的な発言でマスターと呼ばれる人物に呼ばれ、奥へ向かった時ルードが面白そうにしていたのには驚いた。 ルードのこのような表情はあまり見ない。
席に腰掛けメニューを開いたジェイダと共に、何があるのかと目を向ける。 思わず二度見する勢いだったことは反省しなければ。
私達の前に座る、フェーネさんとロナリアもメニューの質の高さに驚きを隠せていない。
まず、文字だけではなく絵が描かれていところに好感が持てる。 初めて来る人でも、わかりやすい工夫がされている。
次に文字。 少し傾いて書かれているため、私は読みやすい。
最後に値段。 もし絵と同じ料理が出てくるなら、この値段は安すぎる。 貴族エリアで出すなら三倍の値段でも良いと思う。
私はピザという初めて聞く食べ物を頼んだ。
種類を選べるというのが良い。 最初だからと、定番を選んだ。
ジェイダは、オムライス。 絵のようすから黄色いのは卵だろう。 赤いソースがかかっていて、何かを包んでいる感じだ。
フェーネさんは、ショートケーキ。 フェーネさんの話を聞くところ、ケーキというのは最近貴族エリアで出され始めた、お菓子の一つらしく、砂糖の塊を食べていると表現していた。
ロナリアは、サンドイッチ。 ルードがパンと言っていたのを思い出し、白い部分がパンであると判断した。 が、パンといば例えるなら石。
私は密かにロナリアのことを挑戦者だと思った。
ルードは何も頼まず、メイドと何やら話をしている。
恐らく昨日の件に違いない。 『シュクルで働かせて下さい』あの言葉には、人生で一番驚いたのでは? と思う程だった。
ルードが自分から何かを頼むなんて、今まで一度もなかったからか、衝撃が大きかった。
文章というよりも、箇条書きな感じ。
頭の中の想像や経験・体験をどうやって伝えるかが、難しく苦戦してます。
国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、王太子妃殿下、王女殿下、王子殿下。
これで全員かな?