第五話
「やっと取れた休暇だが、さてどこへ行こうか」
「平民エリアの大通りより、裏通りに行ってみない? 何か新しい発見とかあるかも」
「ではルード、裏通りはどこだ?」
「父上、ここは……何のお店ですか?」
「カフェ……シュクル? 入ってみるか」
カラン
「いらっしゃいませ」
店内は明るく、何やら音楽が流れている。 だが演奏者が見当たらない。
「不思議なお店ですね父上。 席があるということは、飲食店でしょうか」
「いらっしゃいませ。 開店したけど、人が来ないシュクルへようこそ「メルナ、その説明やめてー!」」
「う、うむ。 では、何か頼もうか」
「お席はどこでも構いません」
メニューは……これか。 む? 品数が多い! こ、これは……
「父上、大通りでもここまで種類も安くもありません」
「うむ……安すぎる」
メニュー
軽食 パン
パンの耳ラスク 銅貨五枚
ピザトースト 大銅貨一枚と銅貨二枚
サンドイッチ各種 二個 大銅貨二枚
卵サンド、カツサンド、マヨハム、フルーツサンド
菓子
アイスクリーム 各種 大銅貨一枚
バニラ、ディンブー、苺、抹茶
パンケーキ 大銅貨一枚と銅貨五枚
大福 二個 各種 大銅貨一枚と銅貨五枚
苺、よもぎ、餡子、みかん
ゴマ団子 二個 大銅貨一枚と銅貨五枚
ショートケーキ 大銅貨二枚
チョコケーキ 大銅貨二枚
プリン 大銅貨二枚
プリンアラモード 大銅貨二枚と銅貨五枚
フルーツパフェ 各種 大銅貨二枚と銅貨五枚
軽食 パン以外
オムライス 大銅貨二枚と銅貨三枚
スパゲティ 大銅貨二枚と銅貨三枚
カレーライス 大銅貨二枚と銅貨五枚
ピザ (各種) 大銅貨二枚と銅貨五枚
定番チーズ野菜とベーコン
小エビとチーズカレー
チーズとトマトサラミ
ミニピザ チーズ野菜ベーコン
飲み物
水 無料
コーヒー
カフィー 銅貨一枚
蒼山 銅貨五枚
紅茶
アプトル 銅貨一枚
ルフェナ 銅貨三枚
ディンブー 銅貨五枚
因みにお金の単位はヴァルで、硬貨計算はこうなる。
十ヴァル、銅貨一枚。
百ヴァル、大銅貨一枚。
千ヴァル、銀貨一枚。
一万ヴァル、大銀貨一枚。
十万ヴァル、金貨一枚。
百万ヴァル、大金貨一枚。
一千万ヴァル、白金貨一枚。
父上と呼ばれた男性は、品数の多過ぎるメニューを閉じた。
「すまんが、メニューが多くて決められん。 何かオススメを貰えないだろうか」
「かしこまりました。 そちらの方は」
「うーん僕は……サンドイッチの卵とカツサンド。 後、ディンブー」
「少しお待ち下さい」
ルードと呼ばれた銀髪の少年は、店内をキョロキョロする。
初めて見る小物や、設備に目を輝かせた。
少年の目には店内がまるで、宝石箱のように珍しく見えており、誰が見てもワクワクしているようだった。
「失礼します。 こちら、ディンブーとサンドイッチです」
「オススメと言われましたので、カレーライスです」
五分程で頼んだ品が運ばれ、その速さに驚き、置かれた品を見て更に驚いた。
ルードの紅茶とサンドイッチなるものは、まだ良い。 だがワシのこれは、何だ?
この茶色と白い粒は何だ?
「ーー上」
「父上」
はっ!
「で、では、頂こう」
男性はスプーンを口に運び、少年はサンドイッチを食べた。
「「!!!」」
「「これは!」」
「ルード……このカレーとやら、とんでもなく美味いぞ」
「父上、サンドイッチも負けてませんよ」
◇
「ふう……。 すまない、良いだろうか」
「ご用件をうかがいます」
「このカレーとやらは何だ? 美味すぎるぞ」
「ねえ、このサンドイッチの白い部分は何?」
「カレーとは、数種類の香辛料を組み合わせ味付けをした、品です。 また、サンドイッチの白い部分はパンです」
「パン?! この柔らかさが?!」
男性は思わず唸り声を上げた。 パンと言えば、石のように固く、スープに浸さなければ食べられない主食だ。 だから、宿屋や酒場では出されていない。
それがどうだこの店のパンは、ルードの指が沈む程の柔らかさを持ち、容易く咀嚼することが出来る。
まさに、パンの革命だ。
「ねえ、このお店は毎日開いてるの? 出来ればまた来たいんだけど」
「毎日は開いておりません。 月の日、水の日、星の日だけです」
一週間の内、三日しか開いていないのは、王都では恐らくこの店だけだろう。
男性と少年は、次にいつ来れるだろうと顔を見合わせた。
大銅貨五枚の、五百ヴァルを払い、二人は店を出た。
男性は、大通りを歩きながらルードに話しかけた。
「ワシはあのシュクルという店を気に入った。 だが、書類仕事が多い」
「僕は、学園を卒業したから来ようと思えばいつでも来れるよ」
「いっそのこと、ジェイダに渡すか」
ガラガラガラ
後方から王家の印が入った馬車が近づいて来る。
二人は馬車に乗り込み、シュクルでの食事に花を咲かせた。
◇
「グレイナル、サリファン。 開店中の三日間はどうだった?」
「今のところはお客様が少なくて、問題ないです」
「今後のことを考えると、接客に後、二人は欲しいです」
「マスター。 在庫に変化があまりありません」
グレイナルとサリファンの頭上に『?』が、見える。
「メルナ、ハッキリと言うと?」
「ものすごく増えてます。 空きはあと二つです」
グレイナルとサリファンの頭上には更に『?』が増える。
「あの、話が見えないんですが。 在庫とは?」
「知ってもあまり意味はないかと……シュクルの秘密にもなりますし」
シュクルの秘密。
秘密と言われると、知りたい気持ちが出てくる反面、知ってはいけないのでは? と思う。
特に一番気になっているのは、食事の値段が安いのに食材が沢山あることだ。
仕入れを行ってるところを見たことがない。 にも関わらず、厨房の奥の倉庫には、食材が沢山ある。
これと何か関係がありそうだ。
「仕方ない。 当分、二人の朝・昼・夕の三食は、ここですると良い。 いやむしろ、使いまくってくれ!」
「マスターの言うように、使いまくりましょう。 そして在庫を空にしましょう!」
「ですな。 あの無尽蔵に湧く食材を減らしてやりましょう!」
目の前で、マスターとメルナとオルレガンの三人が、意気込んで言う。
初めて、ふわふわのパンを食べた人の気持ちを想像しました。
カレーに関しては、きっと誰もが考えると思います。
今回の話の真ん中ら辺に、硬貨を書きましたが、自分の作品なのに毎回硬貨の計算に手間取っています。
『円=ヴァル』になります。
一ヴァルまで加えると頭がパンクするので、止めました。