第四話
四話目になります。
土地を購入したハルト達は、街で売られている食材の値段をそれぞれ散って、見て回った。
野菜と言っても、大根などの根菜類、玉ねぎなどの茎菜類、キャベツなどの葉菜類、トマトなどの果菜類、ブロッコリーなどの花菜類、穀物類、茸類、マメ類、イモ類、がある。
季節物だったり、生産数だったり、単純に手間暇だとかで、値段がバラバラだった。
野菜や、肉類、牛乳、茶葉、水も含めて、店で出す料理と値段を決める。
料理人スキルがあるので、料理全般に困ることはない。
唯一困るとすれば、手が足らないこと。
しかし、足らないからと言って誰彼構わなく雇うと、調理法を盗まれる恐れがある。 そのため、第一に信用出来るかどうかを鑑定で見つつ面接をする必要がある。 さらに、商業ギルドで店に害が及ぶ行為を禁止する書類を書いてもらう。 そうしてやっと、雇える。
結構長いので、事前にやるか営業して募るか悩みどころだ。
◇
情報収集後、ハルトは先に帰り店の間取り図を描いていた。
購入した土地はそれなりの広さがあった。 以前は宿屋と酒場があったそうだ。
「オルレガン戻りました」
「メルナも戻りました」
「お疲れ様」
オートマタなのに何故か人間味がある。 だからか、少し疲れたように見える。
「シュクルの間取り図ですか」
「ネーミングセンスありませんね。 砂糖はないですよ」
「それじゃ、メルナはどんな店名にする?」
「そうですね。 私ならイデアルとかイリゼ……あ! シエルなんてどうです?」
「メルナの意見に賛成したいところですが、既に決まってしまったので……」
イデアは、フランス語で理想。
イリゼは、フランス語で虹色の。
シエルは、フランス語で天空。
どう考えても、シエルが一番良い。 ハルトは自分のセンスが嫌になった。
開けた扉の前にレジ。 レジ奥にカウンター。
一階にテーブルを五つ設置し、二階には七つ設置した。 席数は各四つなので最大、百四十五人も入ることが出来る。
飲食店としては王都最大となる。
飲食店は全て一階だけだったことに対し、シュクルは二階も使う。 その分動きが多くなってしまう。
「コンロなんですが、ガスレンジにするのはどうでしょう。 この世界にはない物ですが」
「良いねメルナ。 それでいくよ」
「どんどん決めていこう」
◇
「あんたには悪いが、うちは簡単なものしか出してないからねえ」
「ムリを言ってすみません」
「料理人になりたいっていう、気持ちは大事だよ」
「ふう。 サリファンの方はどうだったかな」
「おーい! グレイナル!」
「サリファン! どうだった?」
「いや、私もダメだった。 でもね、裏通りにお店を見つけたんだ」
「裏通りはイメージが良くない。 怪しい感じがする」
「どうせ、大通りじゃどこも私達の希望通りにはいかないよ。 とにかく行くだけ行こ」
彼らは料理人になる夢を持って、大通りの飲食店を回っていた。
しかしどこも、簡単な調理しかしておらず凝った料理というものがなかった。
平民エリアなら仕方ないのかも知れない。
細い石畳の道の先頭を歩く彼女に声をかける。
「なあ、サリファン。 どこまで行くんだ? 貴族エリアに近くないか」
「もうすぐ着くからさ」
彼女が止まった場所は、二年程前に店じまいをした宿屋だった。 いや、今は違う店が建っている。
三階建てのため、他の建物より長くて大きい。 一番上の階は、きっと見晴らしが良いだろう。
彼女が入って行くので、慌てて追いかけ店内へ足を踏み入れた。
酒場とは違い、店内は落ち着いた雰囲気だった。
「いらっしゃいませ」
どこかの貴族のメイドかと思う程の美人が、メイド服を着て声をかけてきた。
「あ、いえ。 客じゃないんです」
「開店したけど人が来ない、シュクルにどういったご用件でしょうか」
何だろうこの、自虐的のような他人事のような感じは。
「私達、料理人になりたくて飲食店を回ってるんですけど、希望にそう店が見つからないんです」
「ウロウロしてたら、このシュクルを見つけたから入ってみたという感じでしょうか」
「「はい」」
「少しお待ち下さい」と言って、メイドさんは階段を上がって行った。
「雰囲気は良いけど、ここもダメかなあ」
「まだ決まった訳じゃないだろ」
話しているとメイドさんの後ろから、青年が来るのが見えた。
彼が店主だろうか。
「マスター、こちらがそのお二人です」
「初めまして。 カフェシュクルのマスターをしてます、ハルトです」
席に座るよう促され、二人は腰掛ける。
「料理人になりたいけど、大通りはどこも簡単な軽食だから、裏通りに来たって、聞いたけど合ってる?」
「「はい」」
「じゃ、お二人の希望って何?」
「その店でしか出せないような、凝った料理や親しまれる料理に関わりたいです」
「出来れば二人一緒に雇ってもらえると……」
いつの間にか青年の斜め後ろに、執事服を着た白髪の男性が立っていた。
マスターと呼ばれた青年は考えた様子で、白髪の男性に意見を聞いた。
「オルレガンはどう思う?」
「心拍数に変化なく落ち着いて話されております。 また、ウソはついていませんが、成長に貪欲だと思います」
オルレガンと呼ばれた男性の発言で、二人の落ち着きは消えた。
「マスター、心拍数上がりました。 マスターのセンスの良さに感銘を受けたのでしょう」
「メルナ、うるさい」
「開店したは良いけど、裏通りだから人が殆ど来ない。 来てもそれほど多くないだろう。 それでも良くて商業ギルドで書類にサインしてくれるなら、雇うよ」
「雇うよ」と言われ、驚きつつも二人は喜んだ。 だが聞きたいことがある。
「あの、雇ってもらえるのは有難いんですが、書類とは?」
「二人に条件があるように、こっちにも条件があるんだ」
「まず、この店は王都のどの店とも違う。 二階なんてないし、最大、百四十五人も入るとこなんてある? 調理器具はここにしかない物が多い。 調理法も外に出したくない」
「雇用条件は、店の害になる言動をしないこと。 内容は、店以外の場所で絶対に、ここの調理法を使ったり伝えない。 ウソをつかない。 真面目な態度で働く。 店に関わる秘密を誰にも伝えない」
◇
まるで、昨日の出来事のように鮮明に思い出せる。
初めてマスターと出会い、雇って貰えた時のことを。
カラン
お。 珍しい、お客さんかな?
「いらっしゃいませ」
野菜の種類が、あれ程あるとは知りませんでした。(果菜類と花菜類の違いとは?)
はい、出ました。
3連続フランス語ですが、題名にある『天空』を何故使わなかったのか、後になって思いました。
明日も投稿します!既に予約済み!