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57 : DAY46-5 ゲースゥ卿の反乱と元ギルマスの終焉

 

「ひっ……ひいいいいっ!?」


 情けない声を上げ、腰を抜かすパトリック。


 夢か現か……この数刻の間、目の前で起こった出来事が全く信じられない。

 自分は世界武術大会の運営責任者として、ゲースゥ卿と共にVIPルームから決勝戦を観戦していたはずだ。


 クレイをリーダーとした竜の牙Aチームがクラウスらのパーティを追い詰めた時には、これで人生大逆転できるとほくそ笑んだものだ。

 だが、そんな甘い考えは観客席を襲った異常事態と、どす黒いオーラを放ち始めたゲースゥ卿の異変にあっさりと吹き飛ばされ……。


 逃げるタイミングを失ったパトリックは、王都を襲う災厄をVIPルームの窓からただ眺める事しかできなかった。



 ゴオオオオオオッ……


『ぐふっ……ぐふふふっ』



 VIPルームから脱出可能な唯一の扉の前にはゲースゥ卿が仁王立ちしている。

 先ほどまで卿を包んでいた青黒い瘴気の色がまた赤黒く変化している。

 卿の身体に何が起こっているか全く見当がつかないが、自分がこの部屋から逃げられないという事だけは確かなようだ。


『パトリックよ……世界を手に入れたくないか?』

『見よ、あの冒険者どもを……奴らはワシの手先になったのだ!』


 出来損ないの魔王のようなセリフを吐くゲースゥ卿に恐怖するしかないパトリック。


 いやだ! 世界征服などしたくはない!

 俺は世界一のギルドマスターになり、私腹を肥やして自堕落な人生を送りたかっただけなんだあああああっ!


 俺はどこで間違ったんだ、欲を出して政府案件に手を出してしまったからなのか!?

 いやあの時、クレイの奴の忠告を聞いていれば……。


 今さらながらに後悔するパトリックであったが、ゲースゥ卿の暴走と彼の運命は今さら止められるはずもなく。


『武術大会に参加した冒険者どもを近衛師団に……王都10万の住民どもを雑兵にして世界中に宣戦布告としゃれこむかのう』

『ぐふふ……パトリックよ、楽しいなぁ……貴様もそう思わぬかぁ!!』


「ひ、ひいいいいいっ!?」


 まったく楽しくない!

 このままでは外法として断罪される!


 道を外れた冒険者を始末するという冒険者協会の裏部隊、”整える者たち”の存在を思い出し、背筋を凍らせるパトリック。


 そうだった、今王都には”羽ばたく者たち”がいるんじゃないか!

 なんとか彼らに連絡を取ってゲースゥ卿を始末してもらおう……おお、それがいい!


 あたふたと懐から通信用の水晶球を取り出すパトリックは、ゆらゆらと揺らめくゲースゥ卿の姿が凶悪な魔獣へと変化していくことに気付かなかった。


「……!……!!……!!」


 王立競技場のVIPルームに響いたか細い悲鳴は、王都を覆う狂乱にかき消され、誰の耳にも届くことは無かった。


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