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50 : DAY44 決勝前の異変

 

「ステファンたちは無事に回復したそうだ。

 ただ……相手の魔法使いが”あの技”を使った瞬間の事はよく覚えていないらしい」


 ばさり……私がテーブルの上に置いた王都時報の表紙にはセンセーショナルな文字が踊っている。


『”羽ばたく者たち”まさかの予選敗退! 無名の格下パーティに足を掬われる』

『予選第3試合で受けたダメージが回復せず、無念の棄権』

『大荒れの慈善クジ……王国財務局が払い戻し率の変更を示唆!? 混乱必至か!』


 王都どころか、世界を驚かせた大番狂わせから1週間……私たちと例の冒険者パーティは順調に勝ち進み……明後日に王立競技場で開かれる決勝戦で対決することになっていた。


「え? あれだけの事があったのに、3人とも覚えていないの?」

「おかしいね……?」


 私の言葉に、ノノイも思案顔だ。

 正直この1週間、おかしな事ばかり起きている。


「まずこれ」


 ノノイの指が、数日前の王国時報の一面を指す。


『世紀の番狂わせを演じたクラウスさんの故郷に直撃取材! 「幼少期は目立つ子ではなかったのですが、とても誇らしいです」とはご両親の談』


「この村が件のパーティのリーダーであるクラウスの出身地。 だが……」


 明らかにおかしい。

 私はノノイに探るような視線を投げる。


「うん。 あたしの記憶ではこの村からここ10年冒険者自体が出てないはずなんだ」


 竜の牙に帝国側の記録は保管されていないが”ディクショナリー”の異名を持っていたノノイが言うのなら間違いはないだろう。

 村人を巻き込んだ演出……という事も考えられるが、これほど大規模にやる意義も見いだせない。


「それに……」



「には~っ☆ ニンゲンさんにこんだけの使い手がいるとはねっ! 対戦するのが楽しみだよ~っ」


 リビングのソファーで王国時報を広げ、無邪気に足をパタパタさせるアル。



「アルが”魔族”の力を認識していない、か」


 私もノノイもはっきりと【魔】の力を感じ取ったのだ。

 試合の後にも、その後の夕食時にも……極めつけは”補給”の後にもクラウスのパーティに純魔族が関わっているであろうことをアルに話したのだ。


「アルの認識が”改変”されている……?」


 信じられない、と言った顔でノノイがかぶりを振る。


 そう。

 何度話しても一瞬後にはアルはその事だけを忘れている。


「アルだけじゃないかもしれないぞ?」


 私は大会本部に提出した『大会棄権届』を見て唸り声を上げる。


 異常事態が頻発していることを鑑み、大会を棄権しようとしたのだ。

 理由として、純魔族が紛れ込んでいると思われることを指摘し、ノノイが帝国から取り寄せた資料も添付した。


 だが、今朝返却された届には

『参加者における特段の体調不良以外は事態を認めず』

 との定型文が書かれているのみだった。


「もしかして、あたしたちふたり以外の認識が変えられているってこと?」


「わからん……とにかく、異常事態であることだけは確かだ」


 異常を察知しているのは私たちだけ……ともすれば自分たちの方が間違っているのかもしれない。

 何とも言えない気持ち悪さを抱えたまま、私たちは決勝戦の日を迎えるのであった。


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