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妄想の帝国

妄想の帝国 その53 “激論!ゴリン開催税”

作者: 天城冴

非難ごうごうのなか開催されたトーキョーゴリンは巨額の赤字に。増税必須と思われる中、民放テレビで一般人やらメダリストを交えた討論番組が生放送。常識人ばかりあつめたはずが、開催への怒りに現場は大荒れ模様に…

『こんばんわ、朝まで激論!のお時間です!今回は、閉会したばかりのトーキョーゴリンの赤字補填増税問題についてです!』


スポットライトが額にあたりまくっている初老の司会者。それを横目に

「ツクツクさんのってますねえ、ペンペン先輩。しかし、こういう微妙な話題やっていいんですかねえ。なんとか無事に開催終了とはいえ、問題とかありまくったゴリンでしたし。いや、メダルラッシュを放映してた分際でいうのはなんですけど」

とつぶやく番組スタッフの一人。そばにいた別のスタッフが、

「だからだろ、トントン。ゴリンが終わったばかりで、まだ感動とか言ってるうちにこういう議論をしたほうがさ、ゴリン関係者への風当たりとか弱いんじゃないかってことじゃないか。なにしろ新型肺炎ウイルスの蔓延、医療崩壊が起こる最中、開催した大会だ。しかも途中で緊急事態宣言が発令されて都道府県をまたぐ移動は原則禁止、でもゴリンは続行というわけわからんことする始末。もう閉会する前から閉会後はどうなるか、といわれてたのに、大赤字で増税必須。感動とか熱気が薄れるにつれ、国民からゴリン関係者、ひいては政府への批判が大きくなるだろうってことでさ。うちもお上ににらまれて放映権をどうのって言われたら…ってことでさあ」

「そうですかねえ、先輩。だって、閉会式のあのブーイングというか、デモの声。音声消せっていう指示でてたけど、それやったら選手の声も聞こえないからできなかったし。だいたい国中が外出自粛、外食どころか身内の会食すらロクにできない中、選手村では酒を飲んでドンチャン騒ぎとか。新型肺炎ウイルスにかかって発熱とかかなり症状が酷くても、国民はなるべく自宅療養とか言われてんのに、ゴリン関係者は入院できるとか。ゴリン関係者をのせた車両が1週間で70回以上事故起こすとか。もうゴリンは国民より大事って感じの態度に怒ってる人たくさんいそうですよ、猛暑のせいもあるけど」

「まあ、医療従事者とかゴリンのニュースすら見たくないっていうSNSあったぐらいだからな。あ、やっぱり相当きてるぞ、看護師さんたち」

ペンペンは出演者のほうに目を向けた。


『私たち、医療スタッフは休みもなく、必死になって新型肺炎ウイルス患者の治療にあたり続けております。実家どころか、自宅にも帰れない。いや、ろくに食事も休みもとれないのに必死になって頑張ったのです!手術の制限なんてしたくなかった!ちゃんと治療を皆さんにしてあげたかった!ゴリンで人手と設備をさかれて満足な治療もできなかったのですよ。それなのに止めてほしいって言い続けたゴリンのせいで増税なんてひどすぎますわ!』

『治療しても治らない、病床満室で受け入れられない、次々にくる患者さんで関係者全員疲弊してる。ゴリン開催と同時にゴリンにも医療従事者をまわせ!なんて無茶苦茶言って!うちの先生の手を煩わしやがって!人も資材もお金もゴリンに回すぐらいなら、医療のほうにまわせばよかったんだ!今まで最低の選手村なんてロシアのマスコミにかかれるぐらいなら、ゴリンを中止して選手村を療養施設にすりゃよかったんだ!そのうえ我々から税をとるだと?ふざけるな!ならゴリン関係者は二度と医者にかかるな、保健所にすら行くな!といいたいぐらいだ』


「うわ、あの看護師さん激怒してますよ。椅子振り回したりしなきゃいいけど」

「人当たりもいい、頼もしい看護師って評判の人だそうだけど、堪忍袋の緒が切れたみたいだな。あの女医さんもだいぶ疲れてるみたいだな。ぶっちゃけゴリンとその関係者に対する怒りだけで、この番組でてきたっていうか」

「ペンペン先輩、飲食店や旅館とかサービス業の人たちもすごいですよ」


『去年からずっと、自粛自粛でこっちはロクに店も開けられないんだ。支援金があるって言っても一日の売り上げの半額以下だ!こっちは山手線の駅前の一等地なんだぞ、家賃だって馬鹿にならないっていうのに。おまけにその支援金も雑収入で税がかかるうえ、遅れに遅れて、四月申請分がようやく入ったばっかりだ。それだって家賃だの最低光熱費で吹っ飛んじまう。そのうえ税金をしぼりとろうってのか!』

『カラオケは感染を広げるから自粛って、じゃ、聖火リレーとかマラソンとかはならないのかよ。沿道に観客が密になってんの何度もみたぞ、テレビで。外ならいいのかよ、空港に選手を追っかけってった奴らだっていただろ。ファンが勝手にやっただけ?そもそもやんなきゃ選手だってこないだろうが。こっちはゴリンのおかげで大損だ、やった奴らが責任とれよ』

『酒提供禁止とかさあ、ゴリン選手村で酒飲んで騒いでたんでしょ。外出するなっていったのに観光しちゃった選手とかさ。すぐ帰国させられたそうだけどメダルはく奪とかしてもいいんじゃない?都民に感染させたらどうするのよ。症状があっても100病院たらいまわしって聞いたわよ、救急搬送もできないってのに、そんな危ないことする人、よく放置してたわよね。罰則もないし。選手の人たち、自分の行動のせいで、他人をどんなに危険な目にあわせてるかってわかってるんのかしら。おまけに人に怪我させるような車両事故おこしたゴリンボランティアとか結構いたじゃない。私たちの命より、生活よりゴリンが上ってわけ?ふざけないでよ。前はニホン選手応援してたけど、今は見るのも嫌よ、ゴリンの人が赤字分払えばいいでしょ、開催したがったんだから』


「なんか、皆さん怒り心頭って感じですねペンペン先輩、最後のバーのマダムの勢いにタジタジですよ、ツクツクさんたち。ゴリン関係者だけ、増税って流れになりそうですけど、ツクツクさん、どうもってくつもりなのかな。医者サイド、飲食サービス業サイドから押されてますけど。一応、国民全員負担してー、って結論にもっていきたいんでしょ、お偉方は」

「そりゃ、対抗馬を一応用意してるからな。何十年も業界で生きてる人だからさ、俺らとは違うんだよ、トントン」

「対抗馬って、ゴリンのメダリストですか?」

「そ、ご丁寧に若い女の子ばっかりだから、矛先も鈍るっていうか、視聴者の同情っていうか、共感も買いやすいだろ」

「そう上手くいきますかねえ」

トントンが言い終わらないうちに当のゴリン選手の発言がはじまった。


『私たち競技のために一生懸命頑張ったんです。ゴリン反対とかで、SNSで見たくないコメントを大勢つけられて、へこんだりしたけれど、それをバネにがんばってメダルを…』

『ちょっと、まってよ。誹謗中傷コメントもあっただろうけど、反対派が全員そういうのばっかりじゃないでしょ。ちゃんと開催した場合の危険性とか説明したのもあったはずよ。少なくとも私とかそうしたけど』

選手のよどみなく読まれる原稿のようなセリフに横やりが入った。

『それは、すみません、気が付かなかったかも』

『まあ、嫌なコメントばっかりで、見たくないのはわかるけどさ。未知のウイルスが流行って、治療薬なし、後遺症がヒドイは、次々に新型が、しかもどんどん凶悪になってくとかのニュースとかみて何とも思わなかったの?』

『それは、その、ニホンは安全って…』

『安全って?そりゃインドみたいに、バッタバッタ倒れて患者が道にまだあふれてって状態じゃなかったわよ。でもね、何回も緊急事態宣言やって、会食止めて、大勢で集まらないで、実家にも帰らないで、なんてことが日常的になってるのに、世界中から人が大勢集まるような大会やるってことに何の疑問も感じなかった?』

『そ、その、ワクチンを打って…』

『どっかの国の選手はワクチン打たずに来たわよね、打つと体調が悪くなってパフォーマンスが悪くなるからって。あと選手村とかの設備ひどいとかでアメリカの体操選手団がホテルに行っちゃったわよね。あれも結構危なくない』

『…』

『こんなときに開催疑問だって有力選手もかなり参加を辞退したらしいじゃない?そんな批判のある大会のメダルって価値あるの?そもそも有力選手がいないからニホンメダルラッシュだって言われたら、どうすんの?』

『そ、そんなこと、…。ゆ、有力選手がいないから、私たちがメダル獲れたなんて、そんなこと、ありません!』


「わ-、あのマダム怖いですよ、ペンペン先輩」

「う、有名政治家を諭して謝らせたって噂があるマダムだそうだからなあ。メダリストとはいえ、世間の荒波を乗り越えた百戦錬磨の女帝とは格が違いすぎるよ。司会のツクツクさんが、なんとか助け船を出してくれないと」


『まあまあ、マダム、その今回の開催は彼女だけのせいでは』

『そうですね、彼女だけのせいではありませんわね』

『あ、先生、さすが医学博士だけあって話がわかっておられる』

『あら、ツクツクさん、私、別に彼女に責任が全くないとはいっておりませんわ。はっきり言って、メダリストとか選手の方々にも、とても腹を立てていますの、私も主だった選手の方々に今回のゴリン開催はあきらめてほしいと訴えた側ですので』

『せ、先生、その、目、目が座ってます…』

『きちんとわかりやすく説明したつもりでしたのに、そのお返しが“メダル獲ったぞ、ゴリン反対って言った人たち、思い知ったか”ですか。ええ、思い知らされましたわ。私たち、メダルを取りたい、競技にでたいという自分たちの願望のために、医療崩壊がおきて新型肺炎ウイルス患者どころか、通常の事故や重病患者すら救えないことになっても構わないという人たちのために貴重な人材や設備を割かれ、犠牲を強いられたということに』

『わ、先生、それ、メ、メス』

『ほほほ、ご心配なくツクツクさん、これは単なるペーパーナイフですわ。メスっぽいものをいじってると精神が少し安定するので念のため。でも、そうですね。思わずヒポクラテスの誓いなんてかなぐり捨てて、ゴリン関係者は絶対、何があっても診てやらねえ!といいそうな気分ですわ』

『先生をあまり刺激しないでくれ。普段は腕もいいし、やさしい方だが、怒りが頂点に達すると、その…』

『ご、ご、ご…』


「あの女医さんも相当ヤバいじゃないですか、ペンペン先輩。一応看護師さんが止めてるけど、なんか今にもツクツクさんと選手さんになんかしそうで怖いですよ。選手さん、もう、口もロクにきけないくらいおびえてるし」

「な、なるべく冷静に議論できそうな人を選んだつもりだったんだが。出演者名簿お前だって確認したろ、トントン。業界内でも評判がよく、決して血が上って暴れないようなタイプって下調べしたはずじゃ」

「そ、そのはずなんですが、そういう比較的おとなしく話が分かる人たちでさえ、今回のゴリン開催の件についてはブチ切れ寸前っていうことでは」

「か、かなり不味いことになりそうだぞ、政治家の先生を呼ばなくてよかったかもしれん。出演依頼したんだが、与党ジコウ党は全員断られるし、野党だけだしても偏向っていわれるし」

「政府の人たち、出さなくて正解ですよ、出してたら、すごい乱闘になりかねないです」

トントンがツクツクのほうを指さす。


『ヒイイ、私の責任ではああ、ネクタイをつかまないでください』

『マスコミも開催が不安とかいいながら、競技がーだの、メダル獲得最多ーなんてさわいでたじゃないか』

『か、カラオケメロディーチェーンのしゃ、社長さん、その、う、うちの局の、その』

『親会社とかがゴリンのスポンサーなんだろう、知ってるよ。だからってジャーナリストとして、首都、いや宣言がでた都市の状況を、報道すべきだったんじゃないか』

『ま、毎日、感染者数とか、その』

『検査数は省いてたよな、どれぐらい病床が不足しそうかしたのかとか。俺ら支援金を申し込んだ会社や店がどれだけ待たされてるのか、そういったことを主に取材してたのは一部のスポーツ紙とか地方紙、野党の機関紙だけで大手紙は開催中はほんの片隅に掲載したぐらいだよなあ』

『そ、その、知らなくて』

『はあ?そこのメダリストとか選手のお嬢さんたちならともかく、長年報道の現場にいたアンタがそれを言うかね、ツクツクさん。この状況にきちんと声をあげなきゃいけなかっただろう、あんたたち。ホント、あんたらマスコミの出演料とか給料とかゴリンの赤字にあてたらどうだよ』

『そうよ、知らないじゃすまないわよ』

『ご、ごめんなさい、私たち、ホントに、本当のこと何も知らなくて』

『あら、メダリストさんがツクツクさんの盾になるのかしら、それとも無知なことを後悔してらっしゃるの?ゴリンなどに出る選手は大人として社会的常識というか問題を知るべきだと思いますけれどね。他国のアスリートとかそういう姿勢ですし。百歩譲って何も知らなかったとしても、この惨状を引き起こす一因となったと分かった今、ご自分の言動の結果をどう受け止めるつもりなのかしら、赤字を選手の皆さんが補填してくれるとか?それだけじゃなく助かるはずの失った命をどう償うおつもり?』

『先生、彼女だけの責任じゃないですよ。とはいえ、どうするつもりなんです?』

『その、私たちが、知らなかったのは、そういう情報を取り入れないようにって、その周りからも言われてたっていうのはあった、と思います。それに疑問ももたずにしたがってしまったっていうことは、確かに人として、どうなのかって言われても仕方ないのかも、脳筋とか馬鹿にされても。悔しいけど…。だから、行動します』

『行動って?』

『委員会の人とか、体操協会の人たちに訴えます。それと国際委員会とか、政府の人とか。増税すべきじゃないって。私たちが払うことになるかもしれないけど、開催で、そのお金がもらえるとかあるそうだから、そういうお金とかも使って』

『偉いわ、お嬢ちゃん、さすがは厳しい練習に耐えただけあるわね。で、マスコミの長年いたっていうツクツクさんは、どうなの?』

『わ、私も、その、訴えます。その、開催の予算の使い方はかなり杜撰で、無駄も多いっていうから、そ、それを明らかにして責任者を追及するとか』

『それなら、増税しなくてすみますわ、ぜひやってください』

『選手さんたちにも責任はあるが、まあ少しずつでも金をだしてくれりゃいいんじゃないかな。ま、最も次は税金でなく、クラウドファンディングとかで開催してほしいもんだけど』

『一番の責任は大会責任者、委員会の上の連中と開催支持した政府の連中だろ、ま、あおった奴らもだけどな』


「な、なんか、トンでもない方向でまとまってますよ。どーしよ、生番組だから差し替えもできないし」

「もう、政府とか上の奴らの責任でまとまっていいんじゃねえか、トントン。ホントのことだし。夜中だから議員さんとかからクレームの電話とかもないようだし。ま、もっとも今、茶々をいれたら、どの議員が文句言ったか、すぐにバレちまう。そんなことしたら、そいつこそ吊るし上げられそうだし」

「メダリストたちも反省っていうか同調しちゃって。今回のゴリン無効とかになっちゃっていいんですかねえ」

「そうなっても、この先の選手生命とか、引退後の人生のが、大事だろ。メダル獲れたら、人生終わりにしていいってんなら、それでもいいけどな」

「それじゃ、それこそ人としてどうかな、って感じですよ。そうですね、せっかく獲れたメダルをあきらめて人としてまっとうな事をするってほうが、なんかカッコいいですよね」

「本来、ゴリンは参加することに意義だろう。メダルとか入賞関係なく参加してたイギリスのスキー代表とか昔いたし。結構、その姿勢感動したな」

「そんな人いたんですか、昔はゴリンも、そんな風だったんですね」

「マスコミもな」

「なんか今日はツクツクさんも違ってきたみたいですよ」


『この緊急事態のなかでのゴリン開催という狂気の沙汰、そして杜撰な資金管理の裏をあきらかにします。そのうえで今一度ゴリン開催増税についての熱い議論を!本日はここまで、ご視聴ありがとうございました!』


開催中も、選手の無断観光外出に、路上酒盛りどんちゃん騒ぎに、ボランティアらの当て逃げなどの事故多発と問題続出のどこぞのスポーツ大イベントですが、弁当やらホテルの部屋大量廃棄などに代表される荒っぽすぎる金遣いのため大赤字になるとの話ですねえ。さて、国民はおとなしく増税されるんでしょうか、筆者は断固拒否したいですが。

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