2話 黒獣襲来
あらすじ 福漏正一は、自殺に見事に失敗し、黒い化け物になってしまった
僕は体が乗っ取られる前に全力で叫ぶ。
「早く僕から離れるんだ!このままだと皆死ぬぞ!」
人々が皆慌てて逃げて行く。僕も慌てて周りに被害が及ばなそうな場所を探す。
そうして辺りを見渡していると、一人まだ逃げていない男がいた。
「そこの君、早く逃げて!」
「まったく、仮にもクラスメイトの名前忘れたのか、正一。俺だ烏山達也だ。」
「そんなこと言ってる場合じゃないから!お願いだからさっさと逃げてよ!」
そんな僕の指示も彼は無視しどんどん近づいてくる。
「逃げる必要なんかない。お前そもそも乗っ取られてなんかいないしな」
「なんでそんなこと断言できるのさ!」
「なんでってお前、俺もそうだったからな」
「は?何言って…」
僕がそう言い終わる前に、彼の体が黒く染まっていく。
「逆なんだよ、お前。お前は乗っ取られたんじゃない。乗っ取ったんだよ」
「僕が…乗っ取った?しかも君のその姿…黒獣になってるじゃないか!早く自害しないと手遅れになるぞ!」
「お願いだから同時に2つのことを話すな。答えにくいだろ」
「あ…ごめん。でも、君このままじゃ…」
僕が反論しようとすると、彼は怒ってしまった。
「いいから人の話を聞け!お前、黒獣についてはどのくらい知ってる?」
「えっと……そういえばほとんど知らないや」
「あー、そうだと思ったわ。しゃーない。簡単に説明するぞ」
「黒獣っつうのは百年ほど前に発生した化け物だ。その正体は感情が振り切っちまった人間で、その力は個体差はあれど、大体最低でも熊相手に一対一で互角に渡り合えるぐらいの力がある」
僕はへえ、と相槌を打ちながら彼の話を聞く。
「それでな、これからは今のお前の身体の状態にも関係する話なんだが」
彼はそう断って話し続ける。
「約十年前、あるところに一人の男がいた。そいつは両親と姉、妹と一緒に平和な日常を過ごしていた」
「え、なんでこのタイミングで昔話?」
「…話続けるぞ。で、その男はある日、小学校の遠足に行くことになったんだ。もちろん男は喜んで遠足に行った。そこまでは良かったんだ」
…この話今必要なのかな。さっさと説明して欲しいんだけど。
「問題はここからだった。男が家から帰ってきた時に、家の中に変な臭いが漂っていた。そこで、男は臭いがリビングから漂っていることに気づいて、そこに向かったんだ」
もしかして、これは彼の話なのかな?
だとすると、さっきの発言まずかったんじゃ…。
「そして男がリビングの光景を見たとき、男は思わず吐いてしまったそうだ。男の目に写っていたのは、黒獣と化した両親が、3歳にも満たない妹を原型が無くなるぐらいに切り刻んでいたものだったらしい。」
彼は一息間を開けると、話を続けた。
「そして、両親があらかた男の妹をバラすと、今度は男の方を襲ってきた。男は必死に抵抗したが、黒獣の力に敵うわけもなく、あっけなく追い詰められてしまった」
彼はそう言いながら上を向く。
「そこで男はあることに気づくんだ。男の身体も段々と黒に染まっていっていることにな。もちろん男は慌てた。自分も両親と同じ化け物になるんだからな。だがな、そこで不思議なことが起こったんだ」
「不思議なこと?」
「お前と同じことだ。男は黒獣になったのに自我が残ってたみたいなんだ。男はその忌々しき力を使って両親だったものを殺し、黒獣から人に戻るんだ」
「…なんとなく話が見えてきたよ。要するに僕も両親を殺せば人間に戻れるんだね」
「そう。その通り…って違う!そんなわけねえだろ。その後男は、自由自在にこうやって…」
彼がそう言うと、彼の黒く染まっていた身体がどんどん肌色に戻っていく。
「黒獣と人間の姿を変えられるようになったってわけだ」
「あ、やっぱり君の話だったんだ」
「いいじゃないか。一回ぐらいこういうのやって見たかったんだよ」
「…………」
「そ、そうだ、お前も恐らく人間の姿に戻れるはずだしやってみな」
「…分かったよ」
僕は試しに人間の姿に戻ろうとした。けど、できなかった。
「……できないんだけど」
「え?」
「いや、だからできないんだけど」
「……ドンマイ」
「は?」
「いや、よく分からんけどできないならできないんだろ。今までそういう例なかったから知らんけど。まあ、諦めろ」
「はあああああああ!?」
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