1話 自殺未遂者の願いは叶わない
僕、福漏正一は駄目人間だって昔から分かってた。
だからこうして今、学校の屋上から死のうとしている。
自分がストレスでアレになってしまう前に。
だけど勇気が湧いてこない。もうまともな人生など諦めているはずなのに。かすかに諦めきれない自分がいる。でも諦めなきゃ駄目なんだ。流石に人殺しの化け物として人生を終えたくない。
ああ、そうこうしている内に野次馬が集まってきてしまった。
どうしよう。このままこの屋上から飛び降りたら誰か巻き添えを出しかねない。
そもそもなんで僕は首つりを選ばなかったんだ。そういうところが駄目なんだ、僕は。
もういいか、犠牲者でても。勝手に野次馬しに来た人達が悪い。
大体もしかしたら僕がアレになるかもしれないのにわざわざ近づくのは頭が悪い輩だけだろう。
…いや、多分母さん泣くだろうし、やっぱり辞めよう…
しかし、そんな僕の考えとは逆に、気づくと体が勝手に跳ねていた。
え、嘘…だろ?
僕はどんどん下に落ちていく。
野次馬が騒ぐのが聞こえる。
ああ、僕はここで死ぬのか。
どんな感じなんだろうな、死ぬのって。痛いのかな。それとも一瞬?
天国はあるのかな?いや、僕が行くのは地獄か。
まるで時間が止まっているみたいに遅く感じる。
今までの事が走馬灯のように駆け巡る。小学校で一人だけ五十メートル13秒台だった事。中学受験を失敗した事。それで父さんに殴られた事。中学でいじめられた事。ロクでもない思い出ばかりだ。もっといい思い出はないのか。
そんな僕の想いに反してロクでもない思い出は続く。
高校受験を失敗し、地元の高校に行った事。父さんに毎日殴られるようになった事。高校で唯一仲良くしていた子が不登校になった事。
もう止めてくれ。そう思っていると、だんだん体が黒に染まってきた。
嘘だろこのタイミングで僕はアレになってしまうのか!アレだけは嫌だ!止まれ!止まってくれ!
だが、現実は僕に微笑むことはない。僕の祈りは届くことなく、僕は黒に染まっていく。
頼む、死んでもいいからアレにはなりたくない!
アレになるのは死よりも残酷だ。体は黒く染まり、人をただ考えなしに殺戮する悪魔になってしまう。それだけは御免だ!
よし、地面が近づいてきた。頼む、間に合ってくれ。間に合え!
だが、どこまでも現実は非情だった。
僕は、地面につく直前に、完璧に黒に染まってしまった。
そしてそのまま、僕は地面に亀裂と黒い海を作りながら、黒獣としてこの世界に降り立った。