クリフと妖精の宝物
昔々、あるところに神様がいました。
神様は人間達とは違う世界に住んでいますが、人間がとても好きなのでよく人間達の世界に来ては人間の皆とお話をしたり、食事をして楽しんでいました。
神様にはまだ生まれて間もない、もうすぐ6歳になる男の子がいます。名前はクリフ。
クリフはとてもたくましくて力強いお父さんとは違い、泣き虫でいつもお母さんにくっ付いている甘えん坊さんでした。
しかしクリフは、お父さんにもお母さんにも出来ないあることが出来るたった1人の男の子です。
クリフは普通目に見えない妖精が見え、お話をする事が出来るのです。
ですがクリフは妖精が怖くて、見かけても決して近付こうとはしませんでした。
妖精が見えると言うクリフを気持ち悪がり嫌う人は多く、お父さんとお母さんがいても友達がいなく、クリフはひとりぼっちなのです。
ある日、クリフはお父さんと一緒に初めて人間の世界にやって来ました。
「わあ……」
神様として皆から愛されているお父さんの姿がとても格好よく見え、いつかはあんな風になりたいなと思ったクリフは、その日からお父さんと一緒に体を鍛え始めました。
最初は全然出来なくて毎日何回も泣いてしまいましたが、お父さんのような立派な神様になるためにクリフは頑張ります。
けれどもやっぱり妖精が怖いのは治らず、見かけると逃げ出してしまいます。
※ ※ ※ ※ ※
クリフが6歳の誕生日を迎える前日、クリフはお父さんと一緒に人間の世界へ来ていました。
そこには神様の世界には無いケーキという食べ物があり、お祝いに買いに来たのです。
ワクワクするクリフでしたが、つい気になってしまったキラキラ光る石を咥えた野良猫を追いかけるとお父さんとはぐれてしまいました。
右も左も分からないクリフはお父さんを呼びながら駆け回り、やがて知らず知らずの内に街の近くにある森の中に入ってしまったのです。
泣きながら走っていたせいで道がよく見えず、気が付いた頃にはどっちへ行けば戻れるのかさっぱり分からなくなってしまいました。
ひとりぼっちでしゃがみ込み、寒い中で泣いていると、クリフの前にチョウチョのような綺麗な羽が見えました。
「……あ」
顔を上げたクリフは、その羽が妖精の羽だと分かり、すぐに顔を手袋をはめた両手で隠します。
「もしかして、僕が見えるの?」
「み、見えません!」
思わず答えてしまったクリフは、声が聞こえるという事は見えているのだと思い出しました。
とても怖くて震えてしまったクリフですが、オレンジ色の妖精がクリフに触れると体がポカポカしてきました。
「突然ごめんなさい、人間……じゃないですね、もしかして神様ですか?」
「え……えっと……お、お父さんは神様、です」
「そうですか、初めまして、僕は太陽の妖精のハレといいます」
「ぼ、僕は……クリフ」
「クリフさん、もしよかったら僕と一緒に探し物を探してくれませんか?」
ハレは宝石を落としてしまい、それを探していたのです。
宝石は雪の妖精が街にいっぱいの雪を降らせるために必要なモノで、このままでは街にたくさんの雪を降らせる事が出来ません。
街では雪まつりがあり、雪が降らないとまつりが出来ないので困ってしまいます。
妖精もまつりが大好きなので、宝石が無いと困ってしまうのです。
「そ、そういえば、さっき猫が持ってたよ」
「本当ですか!? どこに行ったか分かりますか!?」
「街だけど……道、分からない……」
妖精は怖いけど、ハルはとても温かくてお父さんのように優しい話し方のため、少しずつ怖くなくなってきています。
「分かりました、では仲間にも知らせますので一緒に探しましょう!」
「どうやって知らせるの?」
「妖精は頭の中で話すと、近くにいる仲間とお話する事が出来るんです、街への道は分かるので、一緒に行きましょう!」
ニカッと笑って小さな手を出すハレに、クリフは怖いのをすっかり忘れて手を出します。
ハレはクリフの人差し指を両手で掴み、立ち上がったクリフに合わせて羽を広げて飛びました。
「ありがとうございます!」
そんなハレの笑顔を見て、クリフは手伝おうとやる気を出します。
※ ※ ※ ※ ※
ハレのおかげで街に戻れたクリフは、宝石を咥えた猫を探して色んな場所を駆け回りました。
やがて猫を見つけた2人は猫を追いかけ回し、行き止まりのところまで追いつめて猫に近付きます。
「猫さん、どうかその宝石を返してくれませんか? とっても大切な宝石なんです」
「嫌だ!」
突然猫が喋ったものだから、驚いたクリフは尻もちをついてしまいます。
「あなた、妖精なんですか?」
「そうさ、猫の妖精のミーフだ、絶対に返すもんか!」
「ど、どうして返してくれないの?」
「僕は寒いのが大嫌いなんだ! なのに雪なんて降ったらもっと寒くなるじゃないか! だから雪を降らせるこの宝石は渡せないよ!」
「で、でも」
「うるさい! それにお前、妖精じゃないくせに妖精が見えるなんて気持ち悪いんだよ!」
ミーフの言葉に、クリフは息が詰まりかけました。
今までも同い年の子達から大人まで、クリフの事を変な目で見てくる事はよくありました。
妖精が怖いと思ったのも、皆が自分を変な目で見てくる理由が妖精が見えるせいだと知って、怖くなってしまったのです。
そしてミーフに言われたことで、クリフは妖精が怖い存在なのだと思い出してしまいました。
「あ、あああ……」
「気持ち悪くなんかない!!」
涙を流すクリフの前に庇うように出たハレに、ミーフは思わずビクッとなります。
「クリフは、クリフは僕たちのために宝石探しを手伝ってくれたんだ!! 僕を妖精だと知ってるのに、寒い中手伝ってくれたんだ!! だから……優しいクリフを傷付けるなら僕は君を許さない!!」
ハレが強い気持ちを込めた言葉を言うと、ミーフの周りの空気がとても暑くなっていきます。
「な、あちっ! うっ……覚えてろ~!!」
ハレの思いのこもった言葉と力に恐れたミーフは、宝石を置いてどこかへ行ってしまいました。
「ごめんなさい、怒るとつい暑くしてしまって……大丈夫ですか?」
妖精は怖い存在、そう思っていました。
ですが痛くて怖くてたまらないクリフを助けてくれたのは、紛れもない妖精だった。
太陽のように温かな心を持ち、同じ妖精ではなく神の子のクリフを助けたハレは、後悔は全くしていません。
「あ……ありがとう! 僕は、大丈夫だよ!」
「ならよかったです」
笑顔で答えてくれたハレは宝石を持ち、もう1度クリフに笑顔を向けました。
「本当にありがとうございます! これで今年も雪まつりが出来ます!」
「うん、よかったね」
「それから……また、会いに来てくれませんか?」
「えっ、いいの?」
「もちろんです! 僕たちはもう友達です!」
ハレの言葉に、クリフはまた驚いてしまいます。
ひとりぼっちだったクリフがとても欲しかった友達に、ハレはもうなっていると言ってくれたのですから。
嬉しくて嬉しくて、止まったはずの涙がまた出てしまったクリフは、ゴシゴシと目元を拭い、笑って言葉を返します。
「うん! また会いに行くよ!」
※ ※ ※ ※ ※
ハレと別れたすぐ後、クリフはお父さんを見つけて大声で呼び、力いっぱい走ってお父さんの腕の中に飛び込みました。
「全く、心配したじゃないか」
「ごめんなさい」
「でもクリフが無事なら良い、さあ帰ろう、ケーキも買えたぞ~」
「わあ! ありがとうお父さん!」
笑い合う親子が手を繋いで歩き出すと、街に雪が降り始めました。
雪が無くて困っていた人々は喜び、とても騒がしくまつりの準備を進めています。
クリフとお父さんも雪空を見上げ、綺麗な風景に胸躍らせました。
「綺麗だなぁ」
「うん、そうだね」
この雪は妖精が降らせているんだと知るクリフは、1人だけ特別な気持ちで手のひらに舞い散る雪を乗せます。
「何だか嬉しそうだな、何かあったのか?」
「うん! 僕も雪まつり行きたいなぁって」
「そうか! じゃあ今度は母さんと一緒に行こうな!」
「うん! ねぇお父さん」
「何だ?」
誰も知らない、誰も信じない不思議な生き物。
神様の中でも知る者はほとんどおらず、その生き物のせいでクリフはずっとひとりぼっちでした。
自分をひとりぼっちにする妖精が怖くてたまらなかったけど、ハレと出会った事でクリフは妖精と向き合うことが出来ました。
妖精の事をもっと皆に知ってもらおうと、神様になるための目標を見つけたクリフはこれからも頑張ろうと決意しました。
そして、ずっと探していたモノを見つけたのです。
「僕ね、友達が出来たよ」
Fin.
読んでくださりありがとうございました!