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「陽己、起きなさい!」
「…………」
「いつまで寝てるの! もう遅刻確定ですよ!」
「やっちまったああああああ!」
「いやあぁっ!」
「あぶねぇっ!」
目と鼻の先に、俺に馬乗りになった楓香の小さな唇が。体を起こした勢いで、危うくキスになってしまうところだった。
「ふざけた起こし方するなよ!」
「あーぁ、お兄ちゃんの初めて、奪えなかったよ」
「冗談でもやめろ、本気で気持ち悪い」
「何言ってんの? 楓香のこと大好きなくせに。寝言でよく名前呼んでるの、知ってるんだからね!」
「そりゃー家族なんだから夢に出ることくらいあるだろ……」
朝から疲れるやつだ……ただでさえ遅刻で教師に怒られる予定があると言うのに……。
ん、待てよ?
「俺が遅刻ってことはお前も……小学校の方が朝早いだろ?」
「中学校!」
「悪ぃ、素で間違えたわ。そんな見た目だから」
「このクソ兄貴ぃ! 遅刻させとけばよかった!」
炎でも吹けそうな顔で睨んでくる楓香。
殴りかかってくる5秒前と言ったところか。
「悪いけどお前と遊んでる暇はない」
「待てこの!」
一気に階段をかけ下りる。中学生の女の子なら差を付けるのなんて簡単だ。
ドアノブに手をかけた。はい、俺の勝ち! 何で負けたか、明日まで考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、行ってきます――
「お弁当忘れんな!」
「おっと」
こんな生意気な妹だけど、毎朝学校に持って行く弁当を早起きして作ってくれている。さすがにそれを置いていくわけには行かない。
「ありがとな!」
「うん。行ってらっしゃい!」
受け取った途端、今までの形相が嘘のようににこやかになる。コロコロと秋の天気みたいに変わるやつだな。
「楓香の愛妹弁当、存分に楽しんでね!」
玄関の扉を閉める時、隙間から変にニヤニヤしている顔が一瞬見えた。今日はそんなにうまくできたのか。昼休みが待ち遠しいな。