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 女心が手に取るように分かる男(※自称。実際はただの犯罪者予備軍)の考えをまとめると、こうだ。

 彼女は純粋に俺と仲良くなってみたいだけで、それ以上の関係になるかどうかはお互いの気持ち次第。

 

(俺は彼女なんか作る気ないってのに……)

 

 静かになった部屋を片付けながら、明日あの子にどんな顔をして会おうかと頭を悩ます。

 

『私、あなたのことが気になるんです! ……だから、お友達になってくれませんか?』


 放課後の体育館裏で突然言われた言葉が反復する。

 彼女は美少女だった。

 テレビに出ているトップアイドルだと言われても驚かない。愛らしい丸くて大きな瞳。女の子らしい華奢な肩にかかる、さらさらきらきらとした白銀のボブヘア。

 一方相手はあの時以来、女子とまともに会話したこともないこの俺。

 顔は普通、頭も普通、目立った趣味は特になし。

 特徴と言えば、とにかく恋愛というものを恐れているということだけ。

 そんな奴の一体何が、彼女は気になったのだろう。

 

「だめだ、わからない」

「何がわからないの? 」

 

 背中越しに柔らかな高い声が聞こえる。

 振り向かなくても分かる。妹の楓香(ふうか)だ。

 

「お前に聞いたところでなぁ……」

「困っことはすぐに楓香に相談しなさいっていつも言ってるでしょ! ……それよりなんなのこの部屋は!? この前片付けさせたばかりなのに!」

「男の部屋なんてこんなもんだよ」

 

 床に落ちていたお菓子の袋をつまみあげながら、母親みたいに口うるさく言ってくる我が妹。

 俺らが幼い頃母さんが死んで、忙しくなった父が彼女に家の事を全て任せたため、こんな性格になってしまった。

 だがその風貌はというと……中学2年生にもなったというのに、軽くおんぶできそうなほど小さい体。ぷにぷにした丸顔。本来もっと幼い子の特権であるちょっと赤みがかったツインテールを、ぶりっ子でもなくナチュラルに備えている。

 ロリママ妹なんて、あのロリコンに取っては性癖そのものの恐れがある。だから帰るまで自室にひきこもってもらっていたのだ。

 

「お兄ちゃん、楓香ね……」

 

 俺の両肩に手を置いて顔を近づけてくる。なぜだか甘い香りがする。女性から漂ってくるいい匂いの正体はシャンプーだとかよく言うけど、楓香は俺と同じのを使ってるはずなんだがな……彼女を女性というくくりに入れていいのかというのは置いといて。

 

「彼氏できたよ!」


 は?

 

「なァァーにィィィー!? 楓香そういうことは俺に相談してから」「嘘だよ! やっちまったなぁと思った? 思ったの?」

 

 え?

 ……一瞬の驚愕からの一瞬の静寂。

 

「へへへっ、びっくりしちゃって。てか大体なんでそんなことをお兄ちゃんに相談しないといけないの? 逆でしょ? 精神年齢の高い楓香がお兄ちゃんの悩み事を聞くの!」

 

 こいつ、兄貴を騙して楽しんでやがる……!

 

「いつも言ってるだろ、恋愛なんてするもんじゃないって」

「それはどこかのへたれ童貞ヤローの考えでしょ? 恋愛観なんて人によって違うんだから押し付けちゃダメだよ」

「その顔でへたれ童貞ヤローなんて言葉使っちゃいけません!」

 

 まったく、女性はみんな精神的に男より成熟しているものだ。楓香の場合は異常なレベルだが……。恋愛の怖さというのはこういう所からも来るのかもしれない。

 

「で、何を悩んでたの?」

「別に何も」

「嘘をつくなんて悪い子ね! お仕置きしないと!」

「……………………」

 

 どいつもこいつも、なんで俺一人で済ませたいことにわざわざ深入りしてくるんだ……。

 

「分かったよもう……」

 

 もはや勝ち目がないことを察し、包み隠さず放課後あったことを話してやった。

 

「なるほど、お兄ちゃん最低だね!」

 

 グサッガラガラッ!

 

 真剣な顔をして聞いてくれているかと思ったら、ノータイムで出てきた素直なただの悪口に、俺の心はバラバラになった。


「もうちょっとオブラートに包むとかできないのかよ!?」

「だってほんとの事だし。女の子の好意に答えずに、ただ黙って逃げてくるなんて。そんなの世間では通用しないよ?」

「知ってるだろ、俺は恋愛とかそういうのが怖いんだって」

「楓香はね? でもその子はそんな都合知らないよ? 初対面なんでしょ?」

「うっ、確かに…………」

 

 こんな未熟な顔して、どうしてこんなに深い話ができるのか。この子実はすごいビッチで何十人もの男を絶望の淵に落としてきた経歴持ちだったりしない? それだったらお兄ちゃん泣いちゃうわ。

 

「というわけで明日やることはもう決まったね!」

「なんだよ、朝から元気にラジオ体操か?」

「彼女に自分の気持ちをしっかりと伝えること! それができたらぎゅってしていい子いい子してあげるから」

「そんな情けない兄貴この世に存在してたまるか!」

 

 俺の渾身のボケが完全スルーされたことは置いといて……。

 楓香の言うことは正論かもしれない。俺は恋愛が嫌いなだけで、女の子が嫌いな訳ではない。これから学校に行きくくなるのも嫌なので、明日俺の率直な気持ちを伝えてみるか。 

 

「その眼差しは……決心したね、お兄ちゃん! 偉い子だね~」

「うるせぇ!」

 

 子犬の尻尾みたいに髪を振り甘えようと(甘えられようと?)してくる妹を俺はさっと払い除け、部屋から追い出した。

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