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 1人で公園のベンチに佇んでいると、あらゆることを忘れられる。

 勉強の悩み、将来への漠然とした不安、人間関係の諸問題、などなど……。

 何かあった時に静かな住宅街にあるいつきが丘大公園に来る癖は、今年の桜が咲いても変わらなかった。

 世の中にいくつでもありそうないたって普通の公園だが、こんなに狭いのに「大」の字が付いているのには、何かありそうだと思って昔調べたことがある。なんでも建設中はもっと広くする計画だったらしいが、近隣住民たちの反対で――

   

「そこのお嬢さん、ちょっと僕の家に遊びに来ませんか?」

「えぇっ? でっでも、ママが知らない人について行っちゃだめって……」

 

 またあいつかよ。

 

「おいそこの絵に描いたような不審者のお前! やめとけ!」

「くっ……誰だ!?」

 

 振り向いて俺の顔を睨みつけた金髪頭の変質者。その顔は意外にも整っていて、本来女の子にはモテるはずだった。ロリコンでさえなければな……。

 

「お前かよっ! 生瀬陽己(いくせ ようき)!」

「危なかったな、三神昇也(みかみ しょうや)。一歩間違えたらまた刑務所行きだったぞ」

「またとは人聞きが悪いな! オレは前科など持ったことないぞ!」

「親友の俺が親切心で、いつもこうして止めてやってるからだろ。きみ、今のうちに逃げろ!」

「はっ……はいっ! お兄ちゃんありがとねーっ!」

 

 小さく手を振ってランドセルを揺らしながら公園から駆け出していく少女。三神の言う通り、確かに可愛らしいが……それと恋愛感情を抱くことは別だ。

 

「俺のリラックスタイムの邪魔をしやがって」

「それはこっちのセリフだ生瀬。今日もまた1人の小学3年生との恋路を塞がれちまったよ」

「なんで学年まで知ってるんだよ!」

「あの子私立の制服だったろ? あの学校は学年によって第一ボタンの色が決まってるんだ。美しいグラデーションだよ。1年生は赤、2年生は橙色――」

「もういい帰るわ」

「おっおいっ!」

 

 三神の変態無駄知識に耳が痛くなり公園から走り去ろうとした俺だったが、

 

「何か悩んでたんだろ? 話を聞くよ! 親友だろ?」


 と、無駄に綺麗な歯を見せて俺に手を差し伸べてきた。

 まったく、良い奴だ。ロリコンでさえなければな……。

 そうとなれば、俺の答えはただひとつ――

 

「いや、いい」

「おいーーっ!? この流れでこれはおかしいだろーーーっ!?」 

 

 

 ♢♢♢

 

 

「なるほど、そういうわけかぁ」


 俺が出したジュースを飲み干し、納得顔の昇也。勝手に俺の家まで付いてきて、俺のベッドに腰かけている。

 親切心という名のありがた迷惑の勢いに負けて、結局全てを話してしまった。

 

「でもなぁ、ひとつ疑問があるんだよなぁ。聞いてもいいか?」

「なんだよ。言っとくけど、相手は年齢1桁ぷりぷりキッズじゃないぞ?」

「なぁんだ。じゃあもうつまらんから帰るわ」

 

 生瀬メモ:三神昇也はやはり手に負えない

 

「おっけー。じゃあ公園であったこと通報しとくわ」

「じょじょじょ、冗談だよ! オレは真摯に悩みを聞いてやってるつもりだ!」

「なんでそんな必死なんだよ。逆に怪しいぞ」  

「いいから質問させてくれ、生瀬。女子に告白されたってのは本当か?」

「そっからかよ!」

 

 そこが嘘だったら、話が土台から崩れてしまう。魔法の使えないハ〇ーポッターみたいなものだ。

 

「言っちゃ悪いけどな、話したこともない女の子がお前のことを好きになって、告白までしてくるわけないだろ。」

「俺もその時はそう思った。でも事実は事実だ」

「ほんとかよ? 彼女なんて言ってたか覚えてるか?」

「もちろんだ! えーとだな…………」

「……………………」

「……………………なんだっけ?」

「おいっ!」 

 

 悔しいことに、あの時は気が動転していたのでよく思い出せない。公園でどっかの変態が起こした事案さえなければまだ覚えていたもしれないが。

 ジュースを飲んで一旦落ち着いてみればいいかもしれない。

 

「あ、思い出したぞ! 『私、あなたのことが気になるんです! ……だから、お友達になってくれませんか?』だ!」

「は? それ本当に彼女の言葉か?」

「え?」 

 

 予想外に返ってきた疑問文に、グラスを手に持ったまま固まってしまう。

 

「生瀬それは……告白って言わないぞ」

 

 ガシャーンバリバリ!

 衝撃的な発言にグラスが手から滑り落ちてしまった。

 

「どういうことだよ! 気になるイコール好き、友達になりたいイコール好きってことだろ! 『男女の友情など存在しない』の格言を知らないのかよ!」 

「まったくこれだから童貞は……」

「言われたかねぇよ! お前もだろ!」

 

 三神はその容貌のおかげか何人かの女子と付き合ったことがあるが、その度に遅かれ早かれロリコンがバレていいところまで行かずに別れている。

 

「オレの場合、幼女を守る法律とかいうラスボスが倒せないだけだからな。体は童貞でも、心はそうじゃない」

「お前もう家から、いやこの国から出ていけ!」

「それに、仮にそれが愛の告白だったとしても」

 

 俺の苦言を流すように咳払いをし、改めるように座り直すと三神は言った。

 

「お前、恋愛とかそういうの無理だろ。アレルギーなんだから」


 ガシャーンバリバリ!(2度目)

 

「そうだ、忘れてた! 俺は持病のアレルギーで、恋愛とかそういうの無理なんだった! ちくしょう、グラスがいくつあっても足りねぇぜ!」

 

 恋愛アレルギー――男女関係なるものを忌避し、そう感じる状況があれば気がおかしくなったり、その場から逃げ出してしまう体質。数年前、悲劇的に振られたあの事件により俺は、こんな病にかかってしまった。

 さっきまで公園で現実逃避していたのもそのせいだった。こんな重要なことを忘れさせるなんて……やはり、恋愛とは恐ろしいものだ。

 

「そう肩を落とすなよ。お前の言ってた通り、リラックスタイムって大事だな……邪魔しちまったのを謝るよ! ジュースおかわり」

「おう……俺ももう一杯行っとくわ……」

 

 こういう時に分かり合えるのは、やっぱり親友だけだ。

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