2 ファイアァァーボォォールッ――!!
◆
「ファイアァァーボォォールッ――!!」
俺が叫ぶと同時に俺の右手から、野球の球程の大きさの火球が壁に向かって飛んでいく。
火球は壁にぶつかると小さな爆発を起こし消えた。
「…………」
本当に出たぁぁぁ―――っ!?
えっ!? 異世界確定!? 異世界確定なの!?!?
地球でゴブリンが居たり、火球なんて撃てないし、異世界確定だよな!?
マジかぁぁ――― 異世界確定なのかぁぁ――
ん?
って事はチーレムも………
よし、まずは俺のスペックの確認だな。
まず、どれだけの属性の魔法が撃てるかだな。
火球の次は水球かな。
よぉ――し、撃つぞぉ――。
俺は水球を脳内でしっかりイメージし、トリガーとなる魔法名を唱えた。
「ウォォォ――タァァァ――ボォォォ――――ルゥゥゥゥッ!!!」
洞窟内に俺の魂の叫びが響き渡る。
…
……
………
だが、何も起きない。
あれ? 何も出ないな……
テンション上がりすぎて叫んだから魔法名が間違い判定になったか?
もう一度唱えてみるとするか……
次は、失敗しないようにと、冷静にしっかりイメージしながら唱えてみる。
「ウォーターボールッ!!」
…
……
………
やはり、何も起きない。
うん、水球は、使えないっと……
じゃあ、次は風球かな……
俺は、脳内にしっかり風の球をイメージし……
「ウィンドボールッ!!」
…
……
………
しかし、何も起きない。
………うん、良く考えたら風の球なんて目視で確認しづらいもんな……
じゃあ、次は土球?
アースボール? グランドボール? ソイルボール?
ソイルボール? ……聞いた事ないな……
あぁ、ロックバレットとかストーンキャノンとかか……
どっちだ? まぁ、両方試せば良いか……
「ロックバレット!!」
…
……
………
「ストーンキャノン!!」
…
……
………
………もしや、魔力切れか?
ファイアーボール1発で?
そんなカス魔力は勘弁願いたいな……
念の為にもぅ1発ファイアーボールを撃ってみるか……
「ファイアーボール」
俺が魔法名を唱えると同時に俺の右手から勢い良く飛び出す火球。
大きさは先程より少し大きく感じ、壁に着弾すると先程より少し威力の高そうな爆発がおきた。
魔力切れ……では、ないようだな……
って事は、適正の問題か?
とりあえず、ファイアーボールが使えるって事は、火属性は使えるって事だよな……
なら、他の火属性の魔法を試してみるか……
ファイアーボールの次に良く聞く火魔法は……ファイアーアロー?
ファイアーアロー……火の矢のイメージで良いか……
その後、俺は魔力切れの確認の為に時折、ファイアーボールを交えながら思いつく限りの魔法を試した。
結果的にいえば、ファイアーボール以外の魔法は、全く使えなかった。
ちくしょうめ!!
ただ、何故かファイアーボールは、使う度に威力とスピードそして大きさが増していたようなきがする。
ちなみ今のファイアーボールの大きさは、バスケットボール程度だ。
最初は、野球の球程度の大きさだった事を考えれば、かなり大きくなった。
熟練度等が関係しているのだろうか……?
まぁ、今、色々考えたとこで、正確な答えなどわかるはずもなく、俺は考える事を放棄した。
しかし、魔法がファイアーボールしか使えないのはどうしたものか……
だが、まだ他の魔法が使えないと諦めるのは早計だろう。
洞窟から脱出出来たら魔法を使える人に師事を仰げば済む話しだ。
なので、まずはこの洞窟からの脱出だ。
「……脱出ねぇ―――」
本当にこの通路の先に行けば脱出出来るのか?
俺の脳裏に過るのは、当然といえば当然の話し。
今居る場所が、外に一番外に近いはずなのに何故、奥に進む事で洞窟から出る事が出来るのか?
しかし、何発もファイアーボールを当てたはずの壁は、多少表面が削れた程度で到底、壁を壊すなんて出来るようには思えない。
残された選択肢は、通路を進む事だけ……
仕方がないとはいえ、何か釈然としない。
……こういう時は、逆転の発想だな。
俺は、地球で洞窟の入口に居たが、異世界に転移した際に洞窟の際奥に連れてこられた。
こう考えれば通路の先に行くのは何ら不思議な事では無い。
……よし、それでいこう。
「んじゃ、ダンジョンからの脱出を始めますか」
俺は、自分の気持ちに整理をつけ、意気揚々と通路を歩き出した。
◆
通路は別れ道も無くただひたすらの一本道だった。
どれくらい歩いただろうか……時間にして30分くらいか?
そんな通路にもやっと変化が訪れた。
そう、俺の視界の先には鉄製の扉があるのだ。
鉄製の扉はかなりの年季を感じさせられるが腐敗等は見受けられず、まだ、その役目を果たしているようだ。
俺は扉に近づき、そっと右手を添え軽く押してみる。
扉は何の抵抗も無く押した力の分だけ動く。
恐らく、この扉の先には何かがいる……
何故かはわからないが俺は、そう確信出来た。
もしかしたら、異世界に来た事で、そういった感覚が上昇する能力に目覚めたのかもしれない。
さしづめ『気配感知』とか『気配探知』といったところか?
まぁ、これも確認する術がないので、とりあえずは放置だ。
全ては、ダンジョンから脱出したあとに、ゆっくりと確認すれば良い。
さて、問題はこの先に居るのが、何か? だよな……
人……では無いよ……な……
なんとなく、それだけはわかる。
う―――ん、とりあえず確認だけして扉を閉めて、対応策を考えてから突入するか。
石橋は叩いて渡ろうの精神だ。
使い方あってるか? まぁ、良いや。
要は慎重にって事だ。
覚悟を決めた俺は、扉を顔が出せる程度だけ慎重に開き顔だけで扉の先を覗き見る。
扉の先は少し開けた場所で部屋の中央には緑色のあいつが立って居た。
そう、ゴブリンだ。
しかし、今回のゴブリンは先程の奴と少し違いがあたった。
身体が一回り大きい。
身長的には150程度か?
そして、今回は腰布はしておらず、生まれたままの状態だ。
だが、奴は武器を持っている。
あ……股間の紳士の事じゃないよ?
いや、それも結構立派なんだけども、文字どおり武器を持っているんだ。
その右手には、剣が握られている。
俗に言うロングソードというやつだろうか?
見た目的には、そこまで劣化している感じは見受けられず、まだまだ剣としての役目を果たせそうだ。
そこまで確認した俺は、そっと気付かれぬように細心の注意を払いながら扉を閉めた。
あのロングソードは、厄介だな……
前回のように接近されると危険だ。
今の俺は、無手に腰布のみの無防備状態。
そんな状態なのに万が一、近くでロングソードを振られ、当たりでもしたら、悲惨な結果になる事しか想像出来ない。
なので、奴が敵意を向けてきた場合、遠距離から仕留めるのが無難だろう。
つまり、ファイアーボールの出番って訳だ。
ファイアーボールで仕留めきれなかった場合は……死に物狂いで、武器を奪うか。
そう考えを纏めたところで、俺は意を決し、扉を開き、中に入る。
扉を開いた先は、先程の状態と変わらずゴブリンが、部屋の中央に立っていた。
ゴブリンと目が合うと、ゴブリンも俺の存在に気付き。
「グギャギャギャギャ」
その醜悪な顔を楽しそうに変え、まるで喜んでいるように声をあげた。
う――ん、現段階では敵意が有るのか無いのか判断出来ないな……
とりあえず、挨拶しとくか。
「こんにちは……」
…
……
………
何で、こいつらは人が挨拶すると無反応になるんだよ!?
「……コ……」
お、挨拶を返すのか? 『こんにちは』の『コ』だよな?
「……コ……ロ」
「ファイアァァーボォォールッ――!!」
◆