0 プロローグ
◆
「ねぇ、ハルト。
本当にこっちであってると思う?」
「さぁ、あってるんじゃないか?」
「あってるんじゃないかって……何でそんなに他人事なのよ!?」
「他人事って訳じゃないけどさ……ってか、そもそも何で俺に聞くんだよ。 この班のリーダーはお前だろ!?」
「お前じゃありません―― 私には崎島 暁って、立派な名前がありますぅ――」
「わかったわかった。 で、何でリーダーのアキさんが態々、俺だけに進路の確認をとるんだよ?
こういう時は皆に意見を聞いて、纏めるもんじゃないのか?」
「っ!? 今から、そうしようと思ってたわよ!! たまたま最初にあんたに聞いただけ!!」
「あ―― さいですか。 んじゃ、俺は意見を言ったんで、あとは皆の意見を聞いて下さい。」
「そんな事、言われなくてもわかってるわよ!!」
現在、俺達は今春入学したばかりの高校の年間行事の一発目、宿泊研修っていうのに参加している。
この宿泊研修の目的は、新入生達を対象に二泊三日で行われ、期間中に様々な催しを新入生達が力を合わせ乗り越え親睦を深めるという名目で行われている。
それで、この宿泊研修は山の中にある施設を拠点に行われているのだが、本日は二日目の催しで、山の中の至るところにあるポイントを巡るというものをやらされているわけだ。
各ポイントにはスタンプが置かれており、そのスタンプを指定された種類集めて、先生方が待機しているスタート地点に定刻以内に持っていかなければならないのだ。
要はスタンプラリーだな。
このスタンプラリーはグループ単位で行われており、グループは基本男子3名女子3名の計6名でグループを組まされている。
各グループにはポイントの書かれた地図と方位磁石が渡され、それ以外は水筒とか弁当等最低限の所持品しか渡されていない。
あとは、緊急時の連絡手段として幾つかのアイテムも渡されている。
当然、スマホ等の電子機器類の持ち込みは禁止されている。
出発時に先生方が身体検査する程の徹底具合だった。
金属探知機使うとか、徹底しすぎだろ……
「モブ、相変わらずアキと仲良いな」
「誰が、モブだよ!! 俺には最部 春斗って立派な名前があるんだよ!!」
「モブはモブだろ? それよりさぁ、次のポイントまで後どれくらいあるんだ?」
「だから、何で俺に聞くんだよ!? グループリーダーはアキだろ!? アキに聞けよ!!」
「いや…… 何か今のアキに聞くのは、ちょっと……」
「ちょっとじゃねぇよ!! ヘタレかお前は!!」
「はいっ!! 私、山内 智也はヘタレで御座います」
「こ、こいつ認めやがった……」
「ハルト…… 今のアキはピリピリしてる。 トモヤがヘタレるのも仕方ない……」
「ナツキ、トモヤは何時もヘタレだぞ?」
「……確かに……」
「おい、2人共酷くない!?」
「……事実……」
「グハッ!!」
トモヤに言葉の一撃を放った口数の少ない彼女の名前は新垣 菜月といい。
俺、トモヤ、アキ、ナツキの4人は、子供の頃からの腐れ縁で、今回のグループ分けも偶然一緒になったのだ。
偶然って恐いよね。
残り2人のメンバーは、……
「ハルト君、崎島さんが呼んでるよ」
「あぁ、わかった。 シンジも今のうちに水分補給しとけよ?」
「うん、わかったよ」
アキの呼び掛けを伝えてくれた優しそうな雰囲気の彼は佐久間 信治といい。
今回のグループ分けで初めて話したばかりなのだが、グループ内の男共は、これから仲良くする為に皆、下の名前で呼び合おうと取り決めたので、お互いに下の名前で呼びあっている。
まだ、シンジは若干遠慮が出ているため、呼びすてではないが、これからに期待だ。
「アキ、呼んだか?」
「ハルト、今、全員から意見を聞き終わったんだけど、やっぱり正規ルートから、外れてるっぽいんだ……」
「そうか、……それで、どうするんだ?」
「どうしたら良い?」
「どうしたら良いって…… それを決めるのが、リーダーのお前だろ!? 何で俺に聞くんだよ?」
「だって……」
「ふふっ、ハルト君は、頼り甲斐があるから、つい頼っちゃう気持ちもわからなくはないわね」
「霧島さんか…… その頼りがいありそうってのは、よくわからないが、今、このグループのリーダーはアキなんだから、リーダーが決断しないと、何の為のリーダーかわからないだろ?」
俺とアキの話しに参加してきた彼女の名前は霧島 冬華といい、現在、俺達のクラスの委員長をしている。
彼女は霧島財閥のご令嬢で容姿端麗の秀才……要は才色兼備ってやつだ。
性格も良く、周囲からの人望も厚い。
正直、何故このグループのリーダーをやっていないのか謎だ。
きっと、来年あたりは生徒会長でもやっていそうな気がする。
「あら、私の事も下の名前で、トーカって、呼んで欲しいわ」
「………それは………善処します」
ちょ、凄い笑顔なのにプレッシャーがっ!?
「ふふっ、早く下の名前で呼んで貰えるのを心待ちにしてるわね。 それで、ハルト君ならこの状況をどうするのかしら?」
助かった。呼び名の話題を続けていると俺の精神が持たない。
まだ霧島さんを下の名前で呼ぶのは少し抵抗があるんだよね。
向こうから、話題を変えてくれるのなら、それに乗っかるべきだろう。
「う―――ん、そうだな…… 最悪は先生方に緊急連絡をするが、まずは回りの状況確認かな。
案外、正規ルートの近くかもしれないし……」
御察しかもしれないが、現在俺達は迷子になっている。
それというのも、何故か俺達のグループに渡された方位磁石が気付いたら壊れていた。
もぅ、ずっと針がぐるんぐるん回りっぱなしなのだ。
何故、そんな事になってるのか原因はわからないが、おかげで方位磁石で方位を確認して地図と照らし合わせる事が出来ず、足止めをくらっている。
「周囲の確認ね…… わかった、それでいこう」
「それでいこうって…… はぁ………まぁ良いや。
じゃあ、俺が周囲の確認してくるから、今の内にアキ達も水分補給しとけよ?」
「うん、わかった。
ハルト、ありがと」
「はいはい。 んじゃ、行ってくるわ……」
「うん、あまり遠くには行かないでね」
「ハルト君、気をつけてね」
「あぃよ!!」
そういう事で、俺は一旦グループメンバー達から離れ、周囲の確認を開始した。
◆
周囲の確認とは言ったものの、皆からそんなに離れるわけにはいかないので、せいぜい半径50メートル程度の探索をしているのだが、やはり周囲を木々に囲まれていた為、案外近くの地形がわからなかったのも仕方がないといえるだろう。
俺が今いる場所は、視界一杯に広がる高さ4メートル程度の崖の下だ。
つまり、行き止まりって事だな。
「行き止まりか…… って事は、来た方向から考えると…………ん?」
俺が考え込んでいると視界の端にある光景が入った。
良く見ると、それは崖の1ヶ所にぽっかりと開いた穴であった。
所謂、洞窟みたいなものだ。
「洞窟?」
俺はその洞窟に妙に気を引かれ、つい中を見て見たくなった。
「入口から、中を覗くだけなら、問題無いよな……」
魔が差した俺は、恐る恐る中を覗いてみた。
洞窟の中を覗けば、12畳程度の広さで洞窟の中央には台座のようなものがある。
その台座の中央には、何かキラリと光る物が置いてあり、その他は何もない空間だった。
奥の方は暗くて良く見えないので、とりあえず入口に危険は無いと判断した俺は、つい洞窟の中へと足を踏み入れてしまう。
洞窟の中に入ってしまえば、直ぐに目が慣れ、入口から差し込む光の助けもあり、薄暗くはあるが中の様子を良く見渡せた。
見た限り、洞窟の奥へと続くような道は無く、この部屋のみのようだ。
奥へと続く道が無い事で、俺の興味は部屋の中央にある台座へと移った。
台座へと近付けば、台座の上には、野球ボール程度の大きさの吸い込まれそうな程綺麗に輝く深紅の玉が置いてあり、その他には何もない。
「綺麗な玉だな……」
深紅の玉は、そこにあるだけで妙な存在感があり、人を惹き付ける力があるように感じた。
俺は、何故か無性にその玉に触れてみたい衝動にかられ、息を呑みながら恐る恐ると手を伸ばし玉に触れてみることにした。
だが、指先が玉に触れた瞬間、全身に表現のしようが無い程の激痛が駆け巡り俺は思わず声になら無い悲鳴をあげ、その場に踞る
「―――――っ!?!?」
全身に駆け巡る痛みは尋常では無く、これまで経験した事の無い程の痛みだった。
ただただひたすらに痛くて、苦しくて、辛くて、熱くて……
………熱い?
疑問に感じた感覚を確認すべく、痛みに堪える為、強く閉じていた瞼をうっすらと開ける。
俺の視界に写ったのは、自らを焼く真っ赤な炎……
えっ……なんで!?
……俺、…
…燃えて…る……?
全然、思考の整理が追い付かない……
回りに火の手なんか無かったし、人の気配も無かった……
俺が燃える要因なんて、何も無かったはずだ。玉に触れる瞬間まで、辺りに異変も無かった…… 玉に触れる瞬間まで……
……玉に触った事が原因?
……なんで?
玉に触っただけで?
……わからない……
ただ、今はひたすらに痛くて、苦しくて、熱くて……
まともな思考なんて出来やしない。
あぁ……俺、……このまま死んじゃうのかな……
まだ、やりたい事も欲しい物もやり残した事も沢山あったのにな……
……まだ高校生になってまもないのに……
これからの高校生活結構、楽しみにしてたんだけどな……
……ははっ……こんな終わり方って無いよ……
俺が、何をしたっていうんだ……
なんで、こんな目に遇わなきゃいけないんだよ……
……ちくしょう……
……ちくしょう……
……ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう!!
……あぁ
……駄目だ
……もぅ、……
………意識が…………
……父さん……
……母さん……
……こんな俺を……
……生んでくれて……
……ここまで、……
……育ててくれて……
……ありがとう………
…そして……
……ごめん………
◆
春斗が動かなくなった後、春斗の脳内には機械的な声色の音声がながれていた……
肉体の再構築を開始します……成功しました。
続いて、精神の再構築を開始します……成功しました。
ステータスの更新を行います……完了しました。
続いて、スキルの最適化を行います……
有効なスキルは現在有りません。
スキルを有効化します。
スキル『気配察知』を取得しました。
スキル『体術』を取得しました。
エクストラスキル『炎無効』を取得しました。
ユニークスキル『ファイアーボール』を取得しました。
準備完了に伴い、転移を開始します……
………完了しました。
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