軋む僕に。
答えるよ。確かにここに在るものを。
機械を解体しようとすると、機械は無くなってしまう。
家を解体すると、家は無くなってしまう。
動物を解体すると、動物は無くなってしまう。
人を解体しようとすると、人は無くなってしまう。
無くなってしまったものを拾い集めても、機械は、家は、動物は、人は、どこにもなくなってしまう。
答えるよ、今はここにない物を。
壊れてしまったゼンマイを取り換えても、機械はなくならないよ。
窓を差し替えても、家は無くならないよ。
換毛しても、動物は無くならないよ。
細胞を取り除いても、人は人のままだよ。
一つくらい取り換えても、テセウスはいなくならないよ。
テセウスは沈む、いつまでも消えてなくならないまま、海の藻屑になっていく。
僕は誰でありたかったかなんて、僕は誰にもなれなかったなんて。
僕は誰でもありたくなかったに決まっている。
答えるよ、テセウスに思いをはせて。
何もかも入れ替わっても僕は僕だった。いつか、忘れ去られるその時まで。
水底のルバイヤートに思いをはせて。
僕はこうして、終わる命を待っている。