魔木
不貞腐れ寝て気分を入れ替えた。
おかげさまでHPも全快した。
魔法を覚えるにも
減りつつある腹を満たすにも
快適な睡眠ライフを送るためにも
何をとっても街に行く必要がある。
というわけで
街目指してまず森を出ることにした。
ただ、どこに向かえば外なのかは分からない。
森の外に行くほど緑な臭いが薄くなるのでは?
正しいかも怪しい方法だがそれしか思いつかなかった。
辺りの臭いを嗅いでいるとなんとなく分かる気がする。
ああ、たぶんあっちだ。
直感頼りに茂みの中へと入り込んだ―――
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
森の中は行進は然程不快ではなかった。
茂みを抜けた先には大森林が広がっていた。
というのも
まず俺の歩みを妨げる草木はそう大して多くはなかった。
地面から溢れんばかりにむき出しになっている
大木のド太い根っこが邪魔なくらいだ。
木というか大樹というか……
限界まで頭を上げて漸く天辺が見えるスケールだ。
凄まじく高い。デカイ。古樹だろうか。
一本一本がゲームとかよくある世界樹並だ。
そのおかげか
木々の間隔もかなりのマージンがあるし
雑草の高さも大分低いほうだ。
樹木に栄養を取られているのか
生えるたび草食動物の餌になっているのかもしれない
まぁ俺にとっては歩きやすいならなんでもいいが。
よく分からんが俺の初期ボーン地点だけ
周囲がうじゃうじゃ茂っていただけのようだ。
本当に謎だ……
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
歩き始めて体感で1時間ぐらい経った気がする。
遠く彼方にやばいものを見つけてしまったのだ。
小さな木が人宛ら二足歩行で走る光景。
小さいと言っても多分デカイ。
周りに生えてる樹木が馬鹿でかいのと
遠くにいることを差し引けば
間近で見れば平屋2階建てぐらいはありそう。
魔物の類だろうか?
のんびり見物して居たかったがそうは行かなかった。
走るやばい木の更に前
血まみれの男が必死の形相で走っていた。
原因は恐らくというか絶対あの走る木に他ならない。
視力が倍近く上がっている謎は置いとくとして
側近の大問題が現在進行形で発生している。
そいつら揃いも揃って
俺の居る方向へとやってきているではないか……
なんだかんだで家では筋トレやってきた。
体力にはそこそこ自信はあったりする。
……疲れるのは嫌だが逃げる他ないな。戦闘なんて以ての外だし…。
もと来た道?を振り返り一目散に走り出した―――――
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おっかしいなぁ?
茂みにたどり着かないなぁ~
ってか俺のAGI
ステータスの中で高いはずなんだがなぁ……
聞き耳立てる必要すら無く
後ろからは地面が拉げる鳴り響き
どんどんどんどん近くなる。
追いつかれるのも時間の問題だ。
ん?
あの血まみれ男はどうしたかって?
出来事は数十秒前に戻る―――
木よりも前に男に追いつかれた俺は声を掛けられた。
「すまねぇ……あとは頼―――」
そういうと別方向へと走り出した男
後半何言ったか判らんかったが
とにかく足が早かった。
一瞬で追い抜かれた。
そして後ろを振り返ると
相も変わらずあの木がこちらに向かう姿が目に映る。
あれ?これもしかしてタゲチェンジ?
ゲームでも昔やられたが覚えがある。
……トレインだ。
数は1匹でもトレインだった気がする。
要はモンスターの擦り付けだ。
ゲームだったら大抵経験値あざっす!ってなる。
……廃人レベルでやりこんでいたならだが。
だけど現実ではそうはいかない。
なにせ命がかかっているのだ。
おまけに俺のレベルは1である。
男にはもはや殺意しか沸かない。
―――ふざけんな。あいつマジでぶっ殺す。
そのためには否が応でも生き残ならないとダメだ。
俺は走るのはやめた。
ああ、諦めたわけじゃない。
俺が全力で走ったところで追いつかれるのが関の山だ。
そうなれば戦闘は必至だ。
唯でさえクソ雑魚レベル1なのに
疲れ果てた状態で闘っても勝てる見込むは皆無だろう。
ならばせめて体力…スタミナだけでも
温存しておきたいのだ。
逃げるのは無しだ。
やるしかない。
バクバクする心臓を押さえつけ、俺は奴の到来を待った―――――
あれれ・・・思ったよりも進まなかったです。