彼の苦難は終わらない!
ふぅ、間に合った
1
ドアを開けると、濃密な気配が詩也の部屋を満たしていた。彼が気配の発生源へ引き寄せられるように視線を動かすと、“それ”はベッドの上に鎮座していた。しかし“それ”は目の前にいるにも関わらず、まるで何キロも先にあるものを見るようにぼんやりとしか彼の目で捉える事ができなかった。
『僕からの誕生日プレゼントは喜んでくれたかな?』
“それ”の中性的な声を聞いた瞬間、心臓を握られたような圧迫感が全身を襲う。本能的にその場から離れようとするが、“それ”の気配に包まれ動く事はおろか視線を逸らす事すら出来なかった。先程魔王から感じたものと似て非なるものではあるが、その大きさは天地程の差があると感じられた。
『?あぁ、人間には気配が強すぎたかな。んっと………こんなもんかな?』
「………っ!」
“それ”が思案げに呟くと、周囲を圧迫していたものが霧散し、それに伴うように心臓が鼓動を思い出し早鐘を打ち始めた。
やばい、このまま“これ”に好き勝手やられたら身がもたない!
まず会話をせねば
「あなたは一体誰…いえ、あなたは“何”ですか?」
詩也は失礼にあたらないように言葉を選んで話しかけた。
質問に対し“それ”は「あそっか!」というようなかんじで手をポンッと叩くと
「そっかそっか、先に名乗るべきだったね。そうだなぁ、呼び方はたくさんあるよ。気に入ってるのだと・・・『唯一神』かな。まぁ普通に『神様』でいいよ」
と神様宣言したのだった。
2
俺の平和な日常は何処に行ってしまったんだ
朝起きて1時間もしない内に魔王に召喚され今度は神様だって次は何が出てくるんだろう………来るなら早めでね。身が持たないよ・・・
さぁ、相手が何か分かった。次は質問タイムだ。質問したいことは・・・
「それで、プレゼントはどう?嬉しい?楽しい?」
思案しようとしたところ自称神様が子供が親に聞くような調子でこう聞いてきた。
プレゼント?誕生日プレゼントのことか?
「あー、プレゼントって何のことだ?特に何ももらった覚えはないんだけど」
その言葉を聞いた自称神様は、キョトンとして
「何言ってるの?この異世界に来させてあげたでしょ?」
と言い、本日計何回目とも分からない爆弾を落としていった。
「えっ?俺をこの世界に召喚したのは魔王じゃないのか?」
「その認識で間違ってないよ。ただ君の望みを聴いて召喚対象を君に設定したのは僕だから君が召喚された直接的なきっかけである僕は君に『異世界に行きたい』という願いを叶えるというプレゼントをした張本人であることに間違いない。さぁ、それでは早く夢をかなえた感想を聞かせてくれないか。」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?そうなのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
というかいつそんな事お願いしたっけ?そんな覚えは・・・・・・・・・・・・昨日の夜か!?
神様は親に褒められるのを心待ちにする子供のように聞いてきた神様。しかし、自分の素直な考えを伝える。
「いや、神様俺の願いを叶えていただいたのに本当に申し訳ないのですが元の世界に戻してください!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?そうなのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
あ、さっきの俺みたい
「君が夢にまで見た世界だろう?い、いいのかい!?」
「だって、夢見てたのと違うんですもん。」
召喚士魔王だし・・・
「ならどんなならいいんだい?」
かなり食い気味にきいてきた神様に理想を話す
「まず、召喚士は美少女!まぁ、魔王も美少女だからひとまずそれはOK。魔王だけど・・・。そして次に俺は『希少な能力に目覚める』!さらに、悪と戦い『多くの人を助ける』!これくらい異世界召喚なら期待したいかな?」
それを聞いた神様は「要するに、『希少な能力に目覚める』そして『多くの人を助ける』ことが出来ればいいんだね?」とあやしげに言う。
嫌な予感がする。神様はしっかりと理解しているのだろうか。
しかし、遅かった
『ならば、ここから君の運命を変え神の名に誓いその理想を叶えよう!』
そう言い放った神様は先ほどまでの気配を放っており何も言い返すことができなかった。
『おっと、もう時間だからもどらなくては。この世界の感想はまた次回きかせてくれ!』
そう言うと、そのおぼろげな体は粒子となり最後に一言
『それではな香月詩也』と言い消え去る。
まるで、嵐が去った後のようだった。
「大丈夫かな・・・」
3
神様は去ったが詩也の朝は終わらない。
新たな問題発覚!それは、電気水道が通っていないのである。そりゃそうだよ、異世界だもん。魔王、神様の後なので「そんな事かよ」と思うかもしれないが、引きこもろうとしている詩也にとっては大問題である。なにせ数日で冷蔵庫の中が地獄となるからだ。
「はぁ、頼れるのは・・・・・・・・やっぱ俺を眷属とか言ってた魔王だけかぁ。」
食料問題改善のため最も頼りたくない相手を探すべく外へ向かう。
いやいやながらも玄関のドアをあけ、一歩踏み出す。瞬間、視界の端が一瞬きらめき────衝撃
体を吹き飛ばされ視界が回転する。吹き飛ばされる中視界に写ったものを見て、自分の認識が誤っていた事に気づく。視界に写ったのは、純白の刀身をもつ美しい刀を持った女性と、首の断面から鮮血を吹き上げ崩れ落ちる香月詩也の体だった。俺家から出ることすら許されねぇのかよ・・・・・
その光景を認識すると彼の意識は暗転していった。
起床後1時間半の間の出来事である。
彼の苦難は終わらない
次回は一週間以内に出せるといいなぁ
頑張ります